ドイツ文学 20世紀前半
通史では、この時代を「頂点と、断絶」と要約した。ここではその中身を開く。
この四十年ほどが、ドイツ語文学の密度の頂点である。 フランツ・カフカ、ライナー・マリア・リルケ、トーマス・マン、ローベルト・ムージル、ベルトルト・ブレヒト。二十世紀の文学を語るときに外せない名前が集中している。
そして一九三三年に、それが断ち切られる。
前提 — 「ドイツ語文学」であってドイツ文学ではない
この時期の主要な書き手の出身を並べると、ドイツ国内に収まらない。
- フランツ・カフカ — プラハのユダヤ系。オーストリア=ハンガリー帝国、後にチェコスロヴァキア
- ライナー・マリア・リルケ — 同じくプラハ生まれ。各地を移動し続けた
- ローベルト・ムージル、ヨーゼフ・ロート、アルトゥル・シュニッツラー、シュテファン・ツヴァイク — オーストリア
- パウル・ツェラン — 現在のウクライナ領チェルノヴィッツ
共通するのは国籍ではなく言語である。 ハプスブルク帝国の多言語環境と、そこに生きたユダヤ系知識人の位置が、この時代の文学の条件を作っている。
表現主義
世紀初頭、表現主義が起こる。
現実をそのまま写すのではなく、内面の強度をそのまま外へ出す。 絵画で言えば形が歪み色が誇張されるのと同じことを、言語でやる。都市、疎外、終末の予感が主題になった。
ゴットフリート・ベンは医師で、死体解剖室を主題にした詩集で出発した。美化を一切しない。
第一次世界大戦がこの運動の背景にある。戦争は表現主義の終末感を裏書きし、同時にそれを陳腐にした。
カフカ — 説明されない世界
フランツ・カフカは生前ほとんど無名だった。保険会社に勤め、夜に書いた。
変身(変身)は、朝起きたら虫になっていたという一文から始まる。なぜそうなったかは最後まで説明されない。 書かれるのは、その状態で家族との関係がどう崩れていくかである。
審判(審判)では、ある朝逮捕された男が、罪状を知らされないまま手続きに巻き込まれ、処刑される。
城(城)では、測量士として招かれた男が、城に到達できないまま話が終わる。未完である。
構造は一貫している。 前提は不条理だが、そこから先の展開は執拗に論理的である。世界の規則が理解できないまま、その規則に従わされる。
彼は遺稿の焼却を友人マックス・ブロートに頼んだ。ブロートはそれを守らず、刊行した。 現在読める主要作の大半は、この違反によって残っている。
トーマス・マン — 市民と芸術家
トーマス・マンのブッデンブローク家の人々は、リューベックの商家四代の衰退を書いた。実務的な能力が世代を追うごとに失われ、代わりに芸術的な感受性が現れるという図式がある。二十六歳の作品で、後にノーベル文学賞の主要な理由に挙げられた。
ヴェニスに死す(ヴェニスに死す)は、規律によって生きてきた老作家が、美少年への傾倒と疫病の中で崩れていく話である。
魔の山(魔の山)は、サナトリウムで七年を過ごす青年を通じて、戦前ヨーロッパの思想的対立を人物の議論として並べる。 進歩主義者と反動的神秘家が主人公をめぐって論争する。
ナチス政権成立後、亡命してアメリカへ渡った。ラジオ放送でドイツ国民に向けて語りかけている。 戦時中に書いたフォースタス博士は、悪魔と契約した作曲家の生涯という形で、ドイツがなぜあの道を選んだのかを問う作品である。
そのほかの主要な仕事
ライナー・マリア・リルケのドゥイノの悲歌(ドゥイノの悲歌)は、十年をかけて完成された連作である。天使、死、事物の存在をめぐる、極度に凝縮した言語で書かれている。
ローベルト・ムージルの特性のない男(特性のない男)は、崩壊直前のオーストリアを舞台に、行動より思考が延々と続く。 未完のまま作者は亡命先のスイスで死んだ。
アルフレート・デーブリーンのベルリン・アレクサンダー広場は、出所した男がベルリンの街に呑まれていく話で、新聞記事や広告や歌の断片を本文に貼り込む手法をとった。ジェイムズ・ジョイスのユリシーズと並べられる。
エーリヒ・マリア・レマルクの西部戦線異状なし(西部戦線異状なし)は、第一次大戦の兵士の視点から英雄性を一切排して戦場を書いた。世界的なベストセラーになり、ナチスによって焚書の対象になった。
ベルトルト・ブレヒトは演劇の方法を変えた。観客を物語に感情移入させず、距離を取らせる。 歌で筋を中断し、俳優が役を離れて説明する。これを異化効果と呼んだ。目的は、舞台上の出来事を変えられるものとして見せることにある。肝っ玉お母とその子どもたち(肝っ玉おっ母)は三十年戦争を舞台に、戦争で商売する女を主役にする。
一九三三年
ナチスの政権掌握とともに、文学の側に起きたことは明確である。
焚書。 一九三三年五月、大学都市で書物が公開で焼かれた。ハインリヒ・ハイネ、トーマス・マン、エーリヒ・マリア・レマルク、ベルトルト・ブレヒト、シュテファン・ツヴァイクらの著作が対象になった。
亡命。 トーマス・マン(アメリカ)、ベルトルト・ブレヒト(デンマーク・アメリカ)、アルフレート・デーブリーン、シュテファン・ツヴァイク(ブラジル、一九四二年に自死)、ヨーゼフ・ロート(パリ、一九三九年に死去)。
殺害。 ヴァルター・ベンヤミンは一九四〇年、スペイン国境で逃亡が阻まれ自ら命を絶った。フランツ・カフカの三人の妹は強制収容所で殺された(本人は一九二四年に病没している)。
この断絶が、戦後ドイツ文学の出発点になる。
この時代をどう読むか
| 中身 | |
|---|---|
| 言語で括る | 主要な書き手の多くはドイツ国外の出身。国籍ではなく言語の文学 |
| 説明のない不条理 | フランツ・カフカは前提だけを不条理にし、あとは論理的に進める |
| 距離を取らせる演劇 | ベルトルト・ブレヒトの異化効果は、世界を変更可能なものとして見せる方法 |
| 一九三三年 | 焚書・亡命・殺害。この断絶が戦後の出発点になる |