アルフレート・デーブリーン

原綴
Alfred Döblin
生没
1878–1957
出身
シュテッティン(現・ポーランド、シュチェチン)
ドイツ
時代
20世紀前半

生涯

1878年、シュテッティン(現在のポーランド、シュチェチン)のユダヤ人商家に生まれた。十歳のとき、父が若い女と出奔し、母は子どもたちを連れてベルリンへ移った。以後、貧しい家庭で育つ。

ベルリンとフライブルクで医学を学び、精神医学を専門にした。1911年、ベルリン東部の労働者街で開業する。この地区の患者と町の様子が、後の作品の素材になった。

の雑誌『シュトゥルム』に関わり、1910年代から小説を発表している。

第一次大戦には軍医として従軍した。戦後は社会民主党に近い立場で政治的な発言を行い、同時に医師と作家を兼ねる生活を続けた。

1929年、ベルリン・アレクサンダー広場で国際的な成功を得る。

1933年、国会議事堂の放火をナチスが共産主義者の犯行として左翼の一斉検挙に踏み切ると、その直後にドイツを離れた。スイス、フランスを経て、1940年にアメリカへ渡る。ハリウッドで脚本の仕事を試みたが成功しなかった。1941年、家族とともにカトリックへ改宗している。

1945年、フランス占領軍の文化担当官としてドイツへ戻った。だが戦後のドイツで受け入れられず、雑誌の刊行も振るわない。1953年に再びフランスへ去った。1957年、パーキンソン病により79歳で死去した。

作風

デーブリーンの小説は、都市の雑音をそのまま組み込む。

ベルリン・アレクサンダー広場では、主人公の物語の進行に、新聞記事、広告、流行歌の歌詞、天気予報、路面電車の路線図、統計、聖書の引用が割り込む。出典も注釈もなく並置される。この手法をモンタージュと呼ぶ。都市に生きる人間の意識には、こうした断片が絶えず流れ込んでいる、という認識に基づく。

文体は口語である。ベルリンの下町の言葉、犯罪者の隠語、労働者の話し方が使われる。語り手も同じ調子で、読者に語りかけ、警告し、からかう。

デーブリーンは自らの小説観を「叙事詩的なもの」と呼び、人物の内面を掘り下げる心理小説を否定した。作者は人物の心を説明せず、外側に現れるものだけを積み上げる。

主題は、個人が集団と世界に押し潰される過程である。『ベルリン・アレクサンダー広場』の主人公は、三度立ち直ろうとして三度打ちのめされる。最後に残るのは、自分は独りでは何もできないという認識である。

作品ごとに素材と形式が大きく変わるのも特徴にあたる。中国を舞台にした長篇、三十年戦争を扱う大作、南米の征服を書いた叙事詩、1918年のドイツ革命を四部で書いた長篇。統一した作風というものがない。

作品

『王倫の三跳躍』(1915年)

18世紀の中国を舞台にした長篇である。

『ヴァレンシュタイン』(1920年)

17世紀ドイツを荒廃させた三十年戦争を扱う。

『山、海、巨人』(1924年)

未来を舞台にしたSF的な長篇である。

ベルリン・アレクサンダー広場(1929年)

代表作である。殺人で服役していたフランツ・ビーバーコップフが出所し、まっとうに生きようと決意する。だが新聞売り、行商、と職を変えるたびに裏切られる。犯罪者の一味に引き込まれ、走行中の車から突き落とされて片腕を失う。恋人を殺され、精神病院に入る。回復した後、工場の門番として静かに働き始める。

『ハムレット あるいは長い夜は終わる』(1956年)

最後の長篇で、戦争から負傷して帰った青年が家族の過去を問い詰める。

日本語では『ベルリン・アレクサンダー広場』が読める。分量は大きい。

文学史における立ち位置と影響

デーブリーンは、ドイツ語圏のモダニズム小説を代表する。

ベルリン・アレクサンダー広場は、ジョイスユリシーズ、ドス・パソスの『マンハッタン乗換駅』と並べて論じられる。都市そのものを主題にし、断片の集積で書くという方向が共通する。ジョイスからの影響は指摘されるが、デーブリーン自身は否定した。

ブレヒトはデーブリーンを重要な先達と見なしており、その小説論から影響を受けたと述べている。感情移入を排し、人物を社会的な条件のなかで見せるという点で共通する。

グラスはデーブリーンを自分の師と呼び、その名を冠した文学賞を創設した。ブリキの太鼓の過剰な語りと、社会の底辺を書く姿勢は、この系譜にある。

映画化も受容を広げた。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーによる1980年のテレビ版(全十五時間)が知られる。

作家としての評価は、この一作に集中している。他の作品は形式も素材も大きく異なり、まとめて論じることが難しいためである。戦後のドイツで忘れられた時期があり、再評価はグラスら後続の作家の働きかけによるところが大きい。

日本では1970年代以降に紹介された。

作品

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