ローマ文学 黄金期
通史では、この時代を「アウグストゥスの時代」と要約した。ここではその中身を開く。
四十年ほどの短い期間である。 内戦を終わらせたアウグストゥスが権力を握り、平和と安定が戻った。その治世に、ラテン文学が最も高い達成に至る。
ここで重要なのは、この時期の文学が国家と密接に結びついていたことである。マエケナスという有力者が詩人を庇護し、その庇護は新体制の正統性を語る作品を生んだ。「パトロネージ」という語はこの人物の名に由来する。
ただし、これを単純な宣伝と見るべきではない。体制を讃えながら、その代価を書いてしまった作品がここにはある。
ウェルギリウス — 建国神話を書く
ウェルギリウスのアエネイスは、トロイア落城から逃れた英雄アエネアスが、放浪の末にイタリアへ至り、ローマの祖となる叙事詩である。
ホメロスを意識的に踏まえている。前半は放浪でオデュッセイアに対応し、後半は戦闘でイリアスに対応する。ギリシャに対する模倣であると同時に、対抗でもある。
主人公の性格が特徴的である。アエネアスは「ピエタス」——義務への忠実さを体現する。個人の欲望より使命を優先する。恋人ディドを捨ててイタリアへ向かうのも、そのためである。
ここに作品の複雑さがある。 ディドは捨てられて自殺し、その呪いがローマとカルタゴの戦争を予告する。建国を讃える詩の中に、建国のために踏みにじられた者の声が入っている。 末尾も、勝利の歓喜ではなく、敵将を殺す場面で唐突に終わる。
作者は未完成として焼却を遺言したが、アウグストゥスの命で保存されたとされる。
後世への影響は他のどのラテン作品より大きい。 中世を通じて学校教材であり続け、千三百年後にダンテ・アリギエーリが神曲で、地獄と煉獄の案内人としてウェルギリウスを選んだ。
『牧歌』はテオクリトスの形式をラテン語に移したもので、理想化された田園を描く。第四歌は救世主の誕生を予告するように読めるため、中世のキリスト教世界で特別視された。農耕詩は農業の技術を詩にした作品である。
ホラティウス — 詩の作法を定める
ホラティウスは抒情詩・諷刺詩・書簡詩を書いた。
彼の詩の主題は、中庸、友情、酒、そして時間の有限性である。「その日を摘め」という趣旨の一句は、後世に繰り返し引かれた。ただし本来の文脈は快楽主義の勧めというより、明日は当てにならないという認識にある。
文学史上で重要なのは詩論(詩論)である。書簡の形式で詩の作法を論じたもので、「快と益」——詩は楽しませ、かつ役に立つべきだという定式などが示される。
この書物はアリストテレスの詩学と並んで、ヨーロッパの詩論の二大源泉になった。ルネサンス以降の詩学書は、ほぼこの二つを参照して書かれている。
オウィディウス — 神話を集成する
オウィディウスの変身物語は、変身をめぐる神話を天地創造から当代までつなげた長篇詩である。二百五十ほどの物語が、変身という主題で数珠つなぎになっている。
この書物が果たした役割は特異である。 ギリシャ・ローマ神話の知識の主要な供給源となり、中世からルネサンス、近代に至るまでヨーロッパの画家と詩人が繰り返し参照した。 西洋絵画の神話主題の多くは、この作品に由来すると言ってよい。
彼はまた『恋の技法』という恋愛指南の詩も書いた。その内容が風紀を乱すとされ、前八年に黒海沿岸へ追放された。 追放の真の理由には諸説あり、確定していない。 流刑地で書いた『悲しみの歌』は、望郷と嘆願の詩である。
体制を讃える詩人がいた同じ時代に、体制に追放された詩人もいた。 この時期の文学が国家と結びついていたことの、もう一つの側面である。
リウィウス — 建国からの歴史
リウィウスのローマ建国史(ローマ建国史)は、伝説上の建国から当代までを扱う大著である。全百四十二巻のうち、現存するのは三十五巻ほどにすぎない。
方法はトゥキュディデスと対照的である。史料批判より、物語としての面白さと道徳的な教訓を重んじる。 初期の伝説も、疑わしいと断りながら記述する。
ローマ人の美徳がローマを大きくし、その富が美徳を失わせたという枠組みで書かれており、アウグストゥスの復古政策と響き合っている。
マキァヴェッリの『ディスコルシ』はこの書物への註釈という形式をとっており、イタリア・ルネサンスの政治思想に直接つながっている。
この時代をどう読むか
| 中身 | |
|---|---|
| 国家と文学 | パトロネージが体制を讃える作品を生んだ。ただし単純な宣伝ではない |
| 讃歌の中の犠牲 | アエネイスは建国を讃えつつ、踏みにじられたディドの声を残した |
| 二大詩論 | 詩論が詩学と並ぶヨーロッパの詩論の源泉になった |
| 神話の供給源 | 変身物語が西洋美術の主題の多くを提供した |
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