黄金期のローマ文学 — ウェルギリウス・ホラティウス・オウィディウス
黄金期は、アウグストゥスが実権を握った前31年から、その死の後14年までを指す。四十年ほどの短い期間である。
内戦を終わらせたアウグストゥスがを開き、平和と安定が戻った。その治世に、ラテン文学が最も高い達成に至る。
ここで重要なのは、この時期の文学が国家と密接に結びついていたことである。マエケナスという有力者が詩人を庇護し、その庇護が新体制の正統性を語る作品を生んだ。という語は、この人物の名に由来する。
ただし、これを単純な宣伝と見るべきではない。体制を讃えながら、その代価を書いてしまった作品がここにはある。
黄金期の主な作品
| 作品 | 成立 | 作者 | 種類 |
|---|---|---|---|
| 『牧歌』 | 前39年頃 | ウェルギリウス | 牧歌 |
| 農耕詩 | 前29年 | ウェルギリウス | 教訓詩 |
| アエネイス | 前29〜前19年 | ウェルギリウス | |
| 詩論 | 前19年頃 | ホラティウス | 詩論 |
| 『詩集』 | 前1世紀後半 | プロペルティウス | |
| ローマ建国史 | 前27〜後9年 | リウィウス | 歴史叙述 |
| 変身物語 | 8年頃 | オウィディウス | 神話の集成 |
ウェルギリウスは、建国を讃えながら犠牲者の声も残した
ウェルギリウスのアエネイスは、トロイア落城から逃れた英雄アエネアスが、放浪の末にイタリアへ至り、ローマの祖となる叙事詩である。
ホメロスを意識的に踏まえている。前半は放浪でオデュッセイアに対応し、後半は戦闘でイリアスに対応する。ギリシャに対する模倣であると同時に、対抗でもある。
主人公の性格が特徴的である。アエネアスは「ピエタス」——義務への忠実さを体現する。個人の欲望より使命を優先する。恋人ディドを捨ててイタリアへ向かうのも、そのためである。
ここに作品の複雑さがある。ディドは捨てられて自殺し、その呪いがローマとカルタゴの戦争を予告する。建国を讃える詩の中に、建国のために踏みにじられた者の声が入っている。 末尾も、勝利の歓喜ではなく、敵将を殺す場面で唐突に終わる。
作者は未完成として焼却を遺言したが、アウグストゥスの命で保存されたとされる。後世への影響は他のどのラテン作品より大きい。中世を通じて学校教材であり続け、千三百年後にダンテ・アリギエーリが神曲で、地獄と煉獄の案内人としてウェルギリウスを選んだ。
『牧歌』はテオクリトスの形式をラテン語に移したもので、理想化された田園を描く。第四歌は救世主の誕生を予告するように読めるため、中世のキリスト教世界で特別視された。農耕詩は農業の技術を詩にした作品である。
ホラティウスの『詩論』が、ヨーロッパの詩論の源泉になった
ホラティウスは抒情詩・諷刺詩・書簡詩を書いた。主題は、中庸、友情、酒、そして時間の有限性である。「その日を摘め」という趣旨の一句は後世に繰り返し引かれたが、本来の文脈は快楽主義の勧めというより、明日は当てにならないという認識にある。
文学史で重要なのは詩論である。書簡の形式で詩の作法を論じたもので、詩は楽しませ、かつ役に立つべきだ、という定式などが示される。
この書物はアリストテレスの詩学と並んで、ヨーロッパの詩論の二大源泉になった。ルネサンス以降の詩学書は、ほぼこの二つを参照して書かれている。
オウィディウスは、西洋美術の主題の多くを提供した
オウィディウスの変身物語は、変身をめぐる神話を天地創造から当代までつなげた長篇詩である。二百五十ほどの物語が、変身という主題で数珠つなぎになっている。
この書物が果たした役割は特異である。ギリシャ・ローマ神話の知識の主要な供給源となり、中世からルネサンス、近代に至るまでヨーロッパの画家と詩人が繰り返し参照した。西洋絵画の神話主題の多くは、この作品に由来すると言ってよい。
オウィディウスはまた『恋の技法』という恋愛指南の詩も書いた。その内容が風紀を乱すとされ、後8年に黒海沿岸へ追放されている。追放の真の理由には諸説あり、確定していない。流刑地で書いた『悲しみの歌』は、望郷と嘆願の詩である。
体制を讃える詩人がいた同じ時代に、体制に追放された詩人もいた。 この時期の文学が国家と結びついていたことの、もう一つの側面である。
リウィウスは、史料批判より物語と教訓を重んじた
リウィウスのローマ建国史は、伝説上の建国から当代までを扱う大著である。全百四十二巻のうち、現存するのは三十五巻ほどにすぎない。
方法はトゥキュディデスと対照的である。史料批判より、物語としての面白さと道徳的な教訓を重んじる。初期の伝説も、疑わしいと断りながら記述する。ローマ人の美徳がローマを大きくし、その富が美徳を失わせたという枠組みで書かれており、アウグストゥスの復古政策と響き合っている。
マキァヴェッリの『ディスコルシ』はこの書物への註釈という形式をとっており、イタリア・ルネサンスの政治思想に直接つながっている。