テオクリトス
- 原綴
- Theocritus
- 生没
- 前300頃–前260頃
- 出身
- シチリア島シラクサ
- 国
- ギリシャ
- 時代
- ヘレニズム期
生涯
前300年ごろ、シチリア島のシラクサに生まれたとされる。シチリアは、当時、豊かなギリシャ人の植民地であり、なだらかな丘と、羊を飼う牧人たちの世界が広がっていた。この故郷の田園の風景が、その詩の原点になった。
学問の都アレクサンドリアや、エーゲ海のコス島でも活動した。エジプトのプトレマイオス朝の王の宮廷に、詩を捧げてもいる。都会の洗練された文化のなかに身を置きながら、素朴な田園の世界をうたった点に、この詩人の特色がある。
現存する作品は、「牧歌(エイデュリア)」と呼ばれる、短い詩を集めたものである。生涯の詳しい経歴は、ほとんど分かっていない。前260年ごろに没したとされる。
作風
テオクリトスが創始したのが、「牧歌」というジャンルである。牧歌とは、羊飼いや山羊飼いといった、田園に生きる牧人たちの世界を主題にした詩である。牧人たちが、木陰で笛を吹き、歌の腕を競い、報われぬ恋を嘆く。そうした、のどかで素朴な田園の生活が、うたわれる。
その世界は、理想化されている。実際の農民の労働の厳しさよりも、田園ののどかさ、自然の美しさ、そして純朴な人々の恋や歌が、選び取られて描かれる。都会の喧噪から離れた、平和で美しい田舎への、あこがれがそこにある。都会に生きる洗練された読者に向けて、失われた素朴な世界を、うたってみせたのである。
牧人たちの歌の競演が、しばしば詩の中心になる。二人の羊飼いが、たがいに即興の歌を掛け合い、その優劣を競う。この歌合わせの形式は、牧歌の重要な型となった。素朴な人物を描きながらも、その詩そのものは、ヘレニズム時代らしく、洗練され、技巧を凝らしたものである。
作品
『牧歌(エイデュリア、Eidyllia)』
田園に生きる牧人たちの世界をうたった、短い詩を集めたものである。羊飼いたちの歌の競演、報われぬ恋の嘆き、田園ののどかな情景が描かれる。「エイデュリア」という題は「小さな情景」を意味し、のちの「牧歌(アイドリオン)」の語源ともなった。牧歌というジャンルの、出発点となった作品である。
文学史における立ち位置と影響
田園に生きる素朴な人々の世界を理想化して描く「牧歌」という詩の形式は、テオクリトスに始まり、その後、ヨーロッパの文学に、二千年以上にわたって受け継がれていく。牧歌というジャンルの創始者である。
その最も重要な後継者が、ローマの詩人ウェルギリウスである。ウェルギリウスは、テオクリトスにならって牧歌集を書き、そこに、失われた黄金時代へのあこがれや、理想郷「アルカディア」のイメージを重ねた。以後、田園を理想化してうたう「牧歌(パストラル)」の伝統は、ルネサンス、そして近代のヨーロッパ文学へと、脈々と流れ込んでいく。
都会の洗練のただなかで、素朴な田園へのあこがれをうたうという構図は、後世の文学が繰り返し立ち返る主題となった。田園詩の父として、その位置は確固としている。