ウェルギリウス
- 生没
- 前70–前19
- 国
- ローマ
- 時代
- 黄金期
何をやったか
ローマに、ギリシャに匹敵する叙事詩を与えた。
問題設定を理解する必要がある。 ローマ人はギリシャ文化に圧倒されていた。哲学も彫刻も演劇も、優れたものはギリシャから来る。 そしてホメロスの叙事詩に並ぶものが、ローマにはなかった。
アエネイス(アエネイス)は、その欠落を埋めるために書かれた。
トロイアが滅びたとき、生き延びた武将アエネアスが、生き残った民を率いて放浪し、イタリアに至り、ローマの祖となる。
この筋立てが巧妙である。
- ローマの起源を、ギリシャ文学の中の英雄に接続した
- 前半はオデュッセイア(放浪)、後半はイリアス(戦闘)という構成で、ホメロスの二作を意識的に踏まえた
- そして、当時の権力者アウグストゥスの家系をアエネアスに繋げた
国家の物語として設計された作品であり、実際にアウグストゥスの庇護のもとで書かれている。
それでも国策文学に収まらない
この作品が二千年読まれてきたのは、宣伝としてよくできているからではない。
中心にある感情は、勝利ではなく喪失である。
主人公アエネアスは「敬虔なる(pius)」と繰り返し形容される。神々の意志と、民の運命に従う男である。そして彼は、自分の望みを一つずつ捨てていく。
燃えるトロイアからの脱出で、妻を失う。 父を背負い、息子の手を引いて逃げ、妻が付いてきていないことに気づいたときにはもう遅い。
カルタゴの女王ディドとの恋。 二人は結ばれるが、神々がアエネアスにイタリアへ向かえと命じる。彼は従う。 ディドは自ら命を絶ち、燃える薪の上から彼の船を呪う。
後に冥界で再会したとき、ディドは彼に一言も口をきかず、背を向けて去る。 アエネイスで最も強い場面の一つとされる、という評価は繰り返し見られる。
「事物の涙(sunt lacrimae rerum)」——滅びたトロイアの絵を見たアエネアスが漏らす言葉であり、訳しにくい句として繰り返し論じられている。
義務を果たす者が幸福にならないという感覚が、この作品を国策の枠から出している。近年の研究には、この作品をアウグストゥス体制への静かな批判として読む立場もある。
そのほかの作品
『牧歌(エクロガエ)』 — 羊飼いたちの対話による詩。田園を理想化した「アルカディア」の伝統がここから広がった。
第四歌が中世に特別な扱いを受けた。新しい時代をもたらす子の誕生を歌う内容が、キリストの予言と解釈されたためである。 これによってウェルギリウスは異教徒でありながら預言者に近い地位を得た。
『農耕詩(ゲオルギカ)』 — 農業の技術を主題にした教訓詩。内容は実用書だが、詩としての完成度が極めて高いとされ、ラテン詩の最高峰に挙げる評価もある。
生涯と、未完の遺言
北イタリアの農家に生まれた。都市の貴族ではない。
マエケナス(後に文芸の庇護者の代名詞になる人物)の後援を受け、アウグストゥスの周辺で活動した。
アエネイスは十一年をかけても完成しなかった。
ギリシャへ旅した帰路、病を得て死んだ。五十歳。
死に際して、彼は未完のアエネイスを焼くよう遺言した。
アウグストゥスがそれを許さず、刊行させた。 今日読まれているのは、著者が破棄を望んだ原稿である。
韻律が途中で切れている行(半行)がいくつも残っており、未完であることが本文から分かる。
文学史の中の位置
中世西欧の最高権威
ギリシャ語が読めなくなった中世西欧で、ウェルギリウスは事実上最高の詩人だった。 学校で読まれ、暗誦され、魔術師としての伝説まで生まれた。
ダンテ・アリギエーリが神曲の案内人に彼を選んだのは、この地位による。ただし異教徒であるため天国には入れず、途中で退場する。 古代への敬意と、そこからの離脱が、この設定に同時に現れている。
以後
- ジョン・ミルトン — 失楽園はアエネイスの構成を意識している
- T・S・エリオット — 「古典とは何か」という講演でウェルギリウスをヨーロッパの中心に置いた
- ヨーロッパ各国の国民叙事詩 — 建国を歌うという型の規範になった
「ヨーロッパの詩人」という呼び方が、この作家にはしばしば使われる。
代表作
『牧歌』(前三七年頃) — 田園詩。アルカディアの伝統の源。
農耕詩(前二九年頃) — 農業を主題にした教訓詩。
アエネイス(未完、前一九年) — ローマ建国の叙事詩。主著。
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- 作品を見る: アエネイス
- 時代の中で見る: ローマ文学 黄金期
- 手本にした詩人: ホメロス — ギリシャ文学 古拙期
- 案内した詩人: ダンテ・アリギエーリ — 神曲