変身物語

原題
Metamorphoses
作者
オウィディウス
成立
8年頃
ローマ
時代
黄金期

概要

紀元8年頃に完成したラテン語の叙事詩である。全15巻、約12000行。

扱うのは、人が動物や植物や星に姿を変える話である。約250の挿話が収められ、世界の創造から始まり、ユリウス・カエサルが星になるところで終わる。変身という一点だけを共通項として、無関係な神話が次々に接続されていく。

構成の仕方が独特である。一つの話の登場人物が次の話を語り出す、同じ土地の別の伝説に移る、似た主題で並べる、といった手つきで、切れ目なく続く。全体を貫く主人公はいない。冒頭で作者は、絶えることのない一つの歌として、世界の始まりから自分の時代までを歌うと述べる。

韻律は叙事詩の形式であるダクテュロス六歩格で、ウェルギリウスアエネイスと同じである。ただし内容は英雄の事績ではなく、恋愛、欲望、嫉妬、暴力、罰が中心を占める。叙事詩の形式で、叙事詩ではないものを書いている点に、この作品の性格がある。

紀元8年頃に完成した。だがその年、オウィディウスは皇帝アウグストゥスによって黒海沿岸のトミス(現在のルーマニアのコンスタンツァ)へ追放される。

追放の理由は明らかでない。オウィディウス自身は、流刑地から書いた作品の中で「詩と過失」の二つによると述べているが、過失の中身は明かしていない。詩のほうは、恋愛の手引きを説いた『愛の技法(Ars Amatoria)』を指すとみられ、アウグストゥスが進めていた風紀の粛正と衝突したと考えられている。過失については、皇室の醜聞に関わったとする説が有力だが、確証はない。

追放を告げられたとき、この作品はまだ推敲の途中だった。オウィディウスは原稿を火に投じたと自ら書いているが、写しが友人の手にあったため作品は残った。焼却の話自体、ウェルギリウスの逸話をなぞった文学的な演出とみる見方もある。

流刑は解かれず、十年後にトミスで死去した。恩赦を求める嘆願の詩を書き続けたが、届かなかった。

文学史における評価と影響

ギリシア・ローマ神話の知識は、ヨーロッパにおいて主にこの作品を通じて伝わった。ギリシア語の原典が読まれなくなった中世以降も、ラテン語であるこの詩は学校で読まれ続けたためである。今日「ギリシア神話」として流通している話の多くは、ローマ人が書いたこの詩の形で定着している。

中世には道徳的な寓意として読み替えられ、キリスト教的な解釈を施した注釈書が作られた。ルネサンス以降は、絵画と彫刻の主題の一大供給源になる。ダフネの変身、ディアナとアクタイオン、ペルセウスとアンドロメダ、エウロペの略奪。西洋美術館に並ぶ神話画の多くが、この詩の場面を描いている。

文学への影響も広い。シェイクスピアは少年時代にこの詩をラテン語で学び、作品に繰り返し用いた。『夏の夜の夢』の劇中劇はピュラモスとティスベの話であり、ロミオとジュリエットも同じ材源に連なる。ダンテペトラルカチョーサーミルトンもこの詩を土台にしている。

作品の性格については、長く軽んじられてきた面がある。ウェルギリウスの重厚さに対して、機知に富み、道徳的な結論を出さず、神々を欲望のままに振る舞う者として描く。20世紀後半以降、この態度が積極的に評価されるようになった。権威に対する距離、語りの技巧、そして変身という主題そのもの——形は定まらず流動するという世界観——が、現代の関心に合致している。

近年の翻案も多い。テッド・ヒューズの英訳詩集をはじめ、詩人による部分訳・翻案が相次いでいる。日本でも全訳が複数ある。挿話ごとに独立しているため、通読せず拾い読みできる作品である。

あらすじ

第1巻は混沌から世界が形づくられる場面で始まる。黄金の時代から鉄の時代への堕落、大洪水、生き残ったデウカリオンとピュラが石を投げて人類を再生させる話が続く。アポロンに追われたダフネは、逃れるために月桂樹になる。牝牛に変えられたイオ。

第2巻以降、話は次々に移る。父の太陽の車を御そうとして墜落するパエトン。アルテミスの水浴を見て鹿に変えられ、自分の猟犬に食い殺されるアクタイオン。ゼウスに欺かれて焼け死ぬセメレ。織物の技をアテナと競い、蜘蛛に変えられるアラクネ。子を殺されて石になるニオベ。

中盤には有名な挿話が集まる。壁の穴越しに愛し合い、思い違いから相次いで死ぬピュラモスとティスベ。水面の自分に恋するナルキッソス。声を返すことしかできなくなるエコー。翼で空を飛び、太陽に近づきすぎて落ちるイカロス。自ら彫った像に恋し、女神の力で人間に変えられるピュグマリオン。触れるものすべてが金になるミダス王。貧しい老夫婦フィレモンとバウキスは、神を家に迎えたことで、死後に並び立つ二本の木に変えられる。冥界へ妻を迎えに行き、振り返ったために失うオルペウス。

後半では、トロイア戦争とアエネイスの筋がなぞられる。ただし主要な戦闘は素通りされ、脇の挿話が拡大される。武具をめぐるアイアスとオデュッセウスの弁論の場面が、そのまま長い法廷弁論として書かれる。

第15巻では、哲学者ピュタゴラスが登場し、万物は変化し続け、同じ形にとどまるものはないと長く説く。輪廻と菜食を説くこの一段が、作品全体の主題の説明にあたる。最後にユリウス・カエサルが暗殺されて星となり、アウグストゥスへの言及が置かれる。

末尾は作者自身の言葉で閉じられる。ユピテルの怒りも火も剣も歳月も消せない仕事を成し遂げた、自分の名は語り継がれ、この作品が読まれる限り自分は生き続ける、という趣旨である。

作者

登場する文学史