イギリス文学 ロマン主義
通史では、この時代を「普通の人の言葉で」と要約した。ここではその中身を開く。
イギリスのロマン主義は、フランスとは争点が違う。フランスでは劇場で規則を壊すことが焦点になり、一八三〇年のエルナニ合戦で決着した。イギリスに三単一のような規則はもともと無く、代わりに誰の言葉で書くかが問題になった。言語の階級性を三百年経験してきた文学らしい争点である。
一七九八年 — 抒情民謡集
ウィリアム・ワーズワースとサミュエル・テイラー・コールリッジが抒情民謡集を匿名で出版した。第二版(一八〇〇年)に付された序文が、事実上の宣言になる。
主張は明快である。詩は特別に飾った言葉ではなく、普通の人が実際に使う言葉で書かれるべきだ。 題材も、宮廷や神話ではなく、田舎の生活や貧しい人々から採る。
これは当時としてかなり過激だった。詩には詩にふさわしい語彙があるという前提(詩的措辞)を否定したことになる。
二人の役割分担も明確だった。ウィリアム・ワーズワースが日常の中に非日常を見出し、サミュエル・テイラー・コールリッジが超自然を扱って現実味を与える。コールリッジの『老水夫の歌』はその代表である。
背景にフランス革命がある。二人とも当初は革命を支持し、後に幻滅した。 ワーズワースの長篇詩『序曲』は、その精神の遍歴を自伝的に書いたものである。
第二世代 — 生き方が伝説になる
バイロン、パーシー・ビッシュ・シェリー、ジョン・キーツは、いずれも若くして死んだ。
バイロンは詩よりもスキャンダルで有名になった。醜聞にまみれてイギリスを去り、各地を放浪し、ギリシャ独立戦争に加わって現地で病死した。三十六歳である。
「バイロン的英雄」——過去に罪を負い、社会から孤立し、それでも誇り高い人物——という型が、ヨーロッパ中の文学に広がった。作家が生き方そのものによって型を提供するという現象は、ここで完成する。
パーシー・ビッシュ・シェリーは無神論を公言して大学を追われ、既存の政治体制と宗教を攻撃する詩を書いた。二十九歳で船の事故により死亡。
ジョン・キーツは二十五歳で結核により死んだ。生前の評価は低く、「頌」と呼ばれる一連の詩が書かれたのは死の一年ほど前である。感覚的で密度の高い言語が後世に高く評価された。
ウィリアム・ブレイクはこの世代より前に属するが、生前はほとんど狂人扱いされた。独自の神話体系を作り、自分で銅版に彫って彩色し、印刷まで一人で行った。 詩と絵が一体になった作品で、評価が確立したのは死後である。
同時期に、まったく別の場所で
ジェイン・オースティンはこの時期に書いているが、ロマン主義とは無縁である。
高慢と偏見(一八一三年)が扱うのは、田舎の中流階級の結婚と財産と階級である。情熱も異国も反逆もない。あるのは応接間の会話と、それを精密に観察する目である。
しかも、ナポレオン戦争のさなかに書かれていながら、作品に戦争はほとんど出てこない。 これを限界と見るか、意図的な選択と見るかで評価が分かれてきた。
技術面では、自由間接話法の早い使用例として文学史上の位置が確立している。語り手が人物の思考に寄り添いながら、同時に距離を取って皮肉る。ギュスターヴ・フローベールが同じ技術で近代小説を作り変えるのは半世紀後である。
生前は匿名で出版し、評価も限られていた。現在では英語圏で最も読まれる小説家の一人になっている。
この事実が示すのは、「同じ時代に書かれた」ことと「同じ潮流に属する」ことは別だということである。教科書の時代区分は、実際には並走する複数の流れを一つのラベルでまとめている。
ゴシックと怪奇
十八世紀後半からゴシック小説が流行した。廃墟、修道院、超自然、恐怖。理性の時代への反動という文脈で語られる。
その系譜からメアリー・シェリーのフランケンシュタイン(一八一八年)が出る。科学が生命を作ったらどうなるかを問うた作品で、SFの起点とされることが多い。
執筆の経緯が知られている。十八歳の夏、バイロンらとスイスで過ごした際、怪談を書こうという遊びから生まれた。ロマン派の中心人物たちの傍らで、十代の女性がこの主題を選んだことになる。
歴史小説
ウォルター・スコットは『ウェイヴァリー』以降の一連の作品で、歴史小説という形式を確立した。 実在の歴史的状況の中に架空の人物を置き、時代そのものを主人公にする方法である。
ヨーロッパ全体に影響し、オノレ・ド・バルザックもレフ・トルストイもこの形式を踏まえている。イギリス発の形式が大陸へ輸出された、数少ない例の一つである。
この時代をどう読むか
| 中身 | |
|---|---|
| 争点の違い | フランスは規則、イギリスは言語階級。同じ「ロマン主義」でも中身が違う |
| 生き方の型 | バイロンが提供したのは詩以上に人物像だった |
| 並走 | ジェイン・オースティンは同時代にいながらロマン主義と無縁。時代区分は複数の流れを覆い隠す |
| 形式の輸出 | ウォルター・スコットの歴史小説がヨーロッパ中に広がった |