フランケンシュタイン
- 原題
- Frankenstein
- 作者
- メアリー・シェリー
- 成立
- 1818
- 国
- イギリス
- 時代
- ロマン主義
概要
1818年に匿名で刊行された長篇小説である。作者メアリー・シェリーは刊行当時二十歳だった。
主人公は若い科学者ヴィクター・フランケンシュタインである。フランケンシュタインは怪物の名ではなく、それを作った科学者の名にあたる。この点はしばしば混同される。生命の秘密を探り当てたフランケンシュタインは、死体の断片を繋ぎ合わせて人造人間を作り上げ、それに生命を与える。
だが生まれたものは恐ろしく醜かった。創造主自身がその姿に嫌悪して逃げ出す。造られたほうは名も与えられず、行く先々で人々に恐れられ、追い払われる。孤独と憎悪のなかで、創造主への復讐を企てるようになる。
原題には「あるいは、現代のプロメテウス」という副題が付く。プロメテウスは神々から火を盗んで人間に与え、その罰として岩に繋がれたギリシャ神話の存在である。神の領域に踏み込み、生命の創造に手を出した人間の物語だという含みがそこにある。
成立には有名な逸話がある。1816年の夏、スイスのレマン湖畔で、メアリーは詩人バイロンや、後に夫となるパーシー・シェリーらと過ごしていた。前年の火山の噴火の影響で天候が悪く、雨で外に出られない日が続く。退屈しのぎに、それぞれ怪奇な物語を書いてみようという話になった。
この競作からこの作品が生まれた。当時メアリーは十八歳である。後に、着想はまざまざとした夢のような幻から来たと記している。
出自も注目される。母は女性の権利を説いた思想家メアリ・ウルストンクラフト、父は急進的な思想家ウィリアム・ゴドウィンだった。母は出産の直後に死んでおり、メアリーは母を知らずに育っている。
作品は1818年に匿名で刊行された。序文を夫のパーシー・シェリーが書いたため、当初は作者を彼だと推測する者もいた。メアリーの作であることが広く知られるのは後のことである。
文学史における評価と影響
サイエンス・フィクションの源流とされる作品である。魔法や超自然の力ではなく、科学の力によって怪物が生み出される。この点で、それまでの怪奇小説とは一線を画す。科学の進歩が人間に何をもたらすかという問いを正面から扱った最初の小説にあたる。
主題としては科学と倫理の関係が中心にある。フランケンシュタインは生命を作る力を手に入れたが、作ったものへの責任は放棄した。科学者が自分の生み出したものに責任を負わないとき何が起きるか。この問いは、遺伝子技術や人工知能が現実の問題になった今日、いっそう切実さを増している。「フランケンシュタイン」という語は、制御を失った科学技術の代名詞になった。
怪物の造形も深く心を打つ。単なる恐怖の対象ではない。愛を求めながら、その姿ゆえに決して受け入れられない存在として書かれている。誰からも愛されないことが憎悪を生む。悪は生まれつきのものではなく、拒絶と孤独が作るものだ、という洞察がここにある。
創造主に見捨てられた被造物という主題は、ミルトンの失楽園とも響き合う。作中で怪物はこの詩を拾って読み、自分を、神に見捨てられたアダムか、あるいは堕天使サタンになぞらえる。
映画をはじめ無数の翻案を生んできた。とりわけ1931年の映画で怪物を演じたボリス・カーロフの姿は、この怪物の定番のイメージとして定着している。
日本でも翻訳が読める。SFとホラーの古典として広く読まれている。
あらすじ
物語は三重の入れ子構造をとる。北極を目指す探検家ウォルトンが姉に宛てた手紙から始まる。ウォルトンは氷の海で憔悴しきった一人の男を救助した。その男フランケンシュタインが語る半生の物語が、この小説の本体になる。
スイスの名家に生まれたヴィクター・フランケンシュタインは、幼い頃から自然科学に強い関心を持っていた。大学で化学と生理学を学ぶうち、死んだ物質に生命を吹き込む方法を発見する。その力で一人の人間を作ろうと決意し、墓場や解剖室から死体の断片を集めた。細かい作業を避けるため、体は人間より大きく作られている。そしてある夜、それに生命を与えた。
だが目を開けたその生き物は、思い描いていた美しさとは正反対の姿だった。恐怖に駆られたフランケンシュタインは、自分の創造物をその場に置いて逃げ出す。生まれたばかりの被造物は、たった一人で世界に取り残された。
やがてフランケンシュタインの幼い弟が殺される。無実の女中が罪を着せられ、処刑された。フランケンシュタインは真犯人があの被造物だと直感する。
山中で二人は再会する。怪物は自分がこれまでどう生きてきたかを語り始めた。捨てられた後、ある一家の小屋の脇に身を潜め、そこから中を覗いて言葉と感情を独学で身につけていた。優しさも愛情もそこで学んでいる。だが姿を見せた途端、どこへ行っても石を投げられ、追い払われた。愛を求めながら決して受け入れられない。その絶望が憎悪に変わったのだった。
怪物はフランケンシュタインに一つの要求をする。自分と同じような伴侶を作ってほしい。そうすれば人間の世界を離れ、二人だけで生きていく、と。フランケンシュタインは一度は承諾した。だが女の怪物を作りかけたところで恐ろしくなり、破壊してしまう。二体が子を産み、その種が人類を脅かすことを恐れたためである。
約束を破られた怪物は復讐を誓う。フランケンシュタインの親友を殺し、次いで新婚の妻を殺した。愛する者をすべて奪われたフランケンシュタインは、復讐に取り憑かれて怪物を追い、北の果てまで旅する。そして氷の海で力尽き、ウォルトンに救われたのだった。
物語を語り終えたフランケンシュタインは死ぬ。その亡骸のそばに怪物が現れる。怪物は創造主の死を嘆き、自らも命を絶つと告げて、北の彼方へ去っていく。