ウィリアム・ブレイク

- 原綴
- William Blake
- 生没
- 1757–1827
- 出身
- ロンドン・ソーホー
- 国
- イギリス
- 時代
- ロマン主義
生涯
1757年、ロンドンの下町ソーホーの、靴下商の家に生まれた。正規の学校教育をほとんど受けず、幼いころから神や天使を見るという幻視を体験したと伝えられる。十代で版画家に弟子入りし、銅版画の技術を身につけた。この技術が、のちに詩と絵を一体化させる仕事の土台になった。
生涯を通じて、版画の仕事で細々と生計を立てた。詩集も、印刷所を通さず、自分で銅版に詩と挿絵を彫り、手で刷り、彩色して制作した。そのため、生前に出まわった部数はごくわずかだった。
世間からは、変わり者、あるいは狂人とさえ見られた。名声も富も得られないまま、貧しさのなかで制作を続けた。1827年、ロンドンで没した。その真価が広く認められるのは、はるか後世のことである。
作風
ブレイクの作品は、詩と絵が分かちがたく結びついている。銅版に、詩の言葉と挿絵をともに彫り、一枚の画面として刷り上げた。言葉とイメージが響き合う、この独特の書物のかたちが、ブレイクの表現の核心である。
その世界を貫くのは、独自の幻視と神話である。ブレイクは、目に見える現実の奥に、霊的な世界を見た。既成のキリスト教の権威や、理性を絶対とする考えを退け、想像力こそが人間を神へと近づける力だと信じた。晩年には、自ら作り上げた壮大な神話の体系を、長大な予言詩に描いた。
対立するものの結びつきも、重要な主題である。無垢と経験、天国と地獄、理性と情熱。ブレイクは、これらを、どちらか一方を選ぶのではなく、対立したまま結び合わせようとした。「純真の予兆」の一節「一粒の砂に世界を見る」は、小さなもののうちに永遠を見るブレイクの視線をよく示している。
作品
『無垢の歌・経験の歌(Songs of Innocence and of Experience)』(1789-1794年)
子どもの無垢な世界をうたった『無垢の歌』と、その裏側にある苦しみや抑圧を描いた『経験の歌』を、対にした詩集である。虎の燃える美をうたった「虎(The Tyger)」など、平易な言葉で深い象徴をたたえた詩を収める。ブレイクの代表作にあたる。
『天国と地獄の結婚(The Marriage of Heaven and Hell)』(1790年頃)
散文と警句によって、善と悪、理性と情熱の対立を問い直した作品である。既成の道徳を痛烈に転倒させ、ブレイクの思想を鮮烈に示している。
文学史における立ち位置と影響
ブレイクは、イギリス・ロマン主義の先駆者として文学史に名を残す。理性を絶対とする十八世紀の思潮に反逆し、想像力と幻視を最も高いものとして掲げたその姿勢は、続くロマン派の詩人たちの精神を先取りしていた。
生前はほとんど無名だったが、十九世紀後半から二十世紀にかけて、その独創性が再発見された。詩と絵を融合させた表現、既成の宗教と理性への反逆、そして壮大な神話の想像力は、後の詩人・画家に大きな影響を与えた。
体制にも流行にも属さず、ただ自らの幻視に忠実に生きたブレイクの生涯そのものが、独立した芸術家の理想として仰がれてきた。時代に理解されなかった孤高の天才として、その位置は確立している。