オノレ・ド・バルザック
- 生没
- 1799–1850
- 国
- フランス
- 時代
- 19世紀
何をやったか
個々の小説を書くのではなく、全作品を一つの体系として構想した。 一八四二年に『人間喜劇』という総題を与え、およそ九十篇を「パリの場面」「地方生活の場面」「私生活の場面」といった分類の下に配置した。
技術的な発明が人物再登場法である。ある小説の脇役が別の小説の主役になり、その後の人生が三作目で語られる。読者は作品を横断して人物を追うことになり、個々の小説の外側に「社会」という全体が実在するかのような効果が生まれる。ラスティニャックやヴォートランがその代表である。
書こうとしたのは、風俗の歴史家として、金と欲望が人間を動かす仕組みそのものだった。莫大な借金を抱え、コーヒーを大量に飲みながら書き続け、五十一歳で没している。
文学史における位置
写実主義を代表する。スタンダールと並んで19世紀前半の小説を確立した。
「小説が世界を引き受ける」という方向の到達点にあたる。この方向はエミール・ゾラに引き継がれ、『ルーゴン・マッカール叢書』という二十巻の体系構想に発展する。ゾラは体系構想をバルザックから、科学の枠組みを同時代の生理学から取った。
一方、ギュスターヴ・フローベールは正反対の方向へ進んだ。バルザックでは語り手が前に出て説明するが、フローベールはそれを消そうとした。同じ写実主義でも、語り手の扱いが対極にある。
マルセル・プルーストも人物再登場の手法を使っているが、バルザックでは人物が客観的に存在するのに対し、プルーストでは同じ人物が見るたびに違う人物になる点が異なる。
代表作
- 『ゴリオ爺さん』(一八三五年)— 人物再登場法が確立した作品
- 『谷間の百合』(一八三六年)
- 『幻滅』(一八三七〜四三年)— 地方出身の青年がパリで挫折する
- 『従妹ベット』(一八四六年)
何から読むか
『ゴリオ爺さん』が定番である。長すぎず、人物再登場法の起点にあたるため、ここから他の作品へ広がる構造が体感できる。
『人間喜劇』全体を読破する必要はない。数作を読んで同じ人物が再登場するのを確認するだけで、バルザックの方法は理解できる。
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