ロシア文学 銀の時代
通史では、この時代を「詩の突出と、その終わり」と要約した。ここではその中身を開く。
「銀の時代」は黄金時代に対する呼称である。十九世紀の長篇小説の時代に対して、この二十五年ほどは詩の時代だった。
そして終わり方が異常である。 一九一七年の革命以後、この時代の詩人たちを待っていたのは亡命、自殺、収容所、銃殺だった。
何が変わったか
黄金時代の小説は「社会をどうすべきか」を扱った。銀の時代の詩はそこから離れる。
象徴主義がフランスから入る。シャルル・ボードレール、ポール・ヴェルレーヌ、ステファヌ・マラルメの影響下で、見えるものの背後に別の実在があるという前提が共有された。
ただしロシアの象徴主義には独自の色がある。宗教的・終末論的な傾向が強い。 世界が終わり、何かが生まれるという予感が繰り返し書かれる。革命前夜の空気と結びついていた。
アレクサンドル・ブロークの『十二』(一九一八年)は、革命下のペテルブルクを行く十二人の赤衛兵を描き、最後にキリストがその先頭に立って現れる。 解釈をめぐって論争が続いた。彼自身は革命を受け入れたが、数年後に衰弱して死んでいる。
アンドレイ・ベールイのペテルブルグ(一九一三年)は、爆弾を仕掛けるよう命じられた青年と、その父である高官を軸に、都市そのものが崩れていくような文体で書かれた。ジェイムズ・ジョイスのユリシーズと並べて論じられることがある。
アクメイズムと未来派
象徴主義への反動として、二つの方向が出る。
アクメイズムは、象徴の彼方ではなくこの世界の事物の明確さを求めた。アンナ・アフマートワとオシップ・マンデリシタームがここに属する。言葉を曖昧にせず、具体的な物と身振りで書く。
未来派は逆に、言語そのものを壊しにいった。ウラジーミル・マヤコフスキーは音と視覚的な配置を使い、街頭で朗読するための詩を書いた。革命を全面的に支持し、宣伝詩やポスターの文句も手がけている。
そして何が起きたか
この時代の詩人たちの結末を並べると、二十世紀ロシアの構造が見える。
- アレクサンドル・ブローク — 革命を受け入れたが、一九二一年に衰弱死
- ウラジーミル・マヤコフスキー — 革命の詩人として活動し、一九三〇年に自殺
- セルゲイ・エセーニン — 農村を歌った詩人。一九二五年に自殺
- マリーナ・ツヴェターエワ — 亡命し、帰国後の一九四一年に自殺
- オシップ・マンデリシターム — スターリンを風刺した詩により逮捕。一九三八年、移送先で死亡
- アンナ・アフマートワ — 生き延びたが、夫は銃殺、息子は長く収容所にいた
- イワン・ブーニン — 亡命。一九三三年、ロシア語作家として初のノーベル文学賞
アンナ・アフマートワのレクイエムは、息子の面会のため刑務所前に並んだ日々から生まれた。書き留めれば証拠になるため、友人たちに暗誦させて保存したと伝えられる。 完全な形での国内刊行は、ソ連の末期になる。
この時代をどう読むか
| 中身 | |
|---|---|
| 詩の時代 | 小説の世紀のあとに、二十五年ほど詩が突出した |
| 終末の予感 | ロシア象徴主義は宗教的・終末論的で、革命前夜と結びついた |
| 二つの反動 | 事物の明確さ(アクメイズム)と、言語の破壊(未来派) |
| 結末 | 亡命・自殺・処刑。作品の運命と作者の運命が重なる |