ギリシャヘレニズム期

ギリシャ文学 ヘレニズム期

通史では、この時代を「書物の文学へ」と要約した。ここではその中身を開く。

アレクサンドロスの東方遠征以後、ギリシャ語は地中海から中央アジアに及ぶ地域の共通語になった。文化の中心はアテナイからエジプトのアレクサンドリアへ移る。

ここで文学の性格が根本から変わる。

図書館が文学を変えた

アレクサンドリアに王朝が図書館を作り、各地から写本を集めた。世界中の書物を一箇所に集めるという発想が、この時代に初めて実行される。

そこに学者が集まり、過去の作品を校訂し、註釈をつけ、真作と偽作を判別した。文献学(フィロロギー)がここで生まれる。

この変化が文学に与えた影響は大きい。

古典期までヘレニズム期
受け手祭礼や宴に集まる聴衆書斎で読む個人
劇場・広場図書館・書斎
前提共有された神話調べればわかる知識
詩人語り手学者でもある

詩人が同時に学者になった。 カリマコスは図書館の司書として蔵書目録を作りながら詩を書いている。作品には稀な神話や地方の伝承が織り込まれ、註がなければ意味が取れない箇所が多い。これは欠点ではなく、読者が調べられることを前提にした書き方である。

短く磨くか、長大に語るか

この時代の中心的な論争がこれである。

カリマコス は「大きな書物は大きな災いだ」という趣旨のことを述べ、短く、緻密に磨き上げられた詩を主張した。ホメロスのような叙事詩をそのまま再生産することを否定したことになる。

アポロニオス・ロディオス は逆にアルゴナウティカという叙事詩を書いた。アルゴ船の英雄たちが金羊毛を求める物語である。

ただしこれは古い叙事詩の単純な模倣ではない。恋愛心理の描写が精密で、メデイアがイアソンに恋する場面の内面描写は、後の文学に強い影響を与えた。英雄譚に心理小説の要素を持ち込んだことになる。

この対立は後世に引き継がれた。 ローマのウェルギリウスアエネイスで叙事詩を書き、ホラティウスは磨き上げられた短詩を書いた。ヨーロッパの詩の議論は、この時期に立てられた枠の中で続くことになる。

牧歌 — 都市が田園を懐かしむ

テオクリトス牧歌(ブコリカ)を確立した。羊飼いが歌を競い、愛を語り、笛を吹く。舞台は理想化された田園である。

重要なのは、これが都市の文学だという点である。書いたのも読んだのもアレクサンドリアの都市生活者で、彼らが失った(あるいは一度も持たなかった)田園を想像で作り上げた。

この形式はウェルギリウスの『牧歌』を経て、ルネサンス以降のヨーロッパ文学に長く生き続けた。 田園を理想郷として描く発想の源流がここにある。

喜劇の転換 — 政治から家庭へ

メナンドロスの喜劇は、アリストパネスとまったく違う。

政治家を実名で攻撃することはなく、扱うのは恋愛・誤解・身元の発覚・家族の和解である。若者が恋をし、障害があり、最後に解決する。

これが「新喜劇」と呼ばれ、以後の西洋喜劇の基本形になった。 ローマのプラウトゥステレンティウスがこれを翻案し、そこからウィリアム・シェイクスピアモリエールへ、さらに近代の喜劇と恋愛物語一般へつながる。

政治を笑えなくなった時代の文学という側面もある。都市国家の民主政が終わり、王朝の支配下に入ったことと無関係ではない。

ローマ支配下 — 過去を整理する

前一世紀以降、ギリシャはローマの支配下に入る。だがギリシャ語の著述は続いた。

プルタルコス対比列伝(対比列伝)は、ギリシャ人とローマ人の生涯を対にして並べ、比較する。アレクサンドロスとカエサル、デモステネスとキケロ。

この書物は後にヨーロッパ文学の主要な素材源になった。 ウィリアム・シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』『アントニーとクレオパトラ』は、英訳されたプルタルコスをほぼ直接使っている。

ルキアノス は諷刺的な対話篇を書いた。神々を笑い、哲学者を笑い、月への旅行を語る『本当の話』はSFの先駆と呼ばれることがある。彼はシリア出身で、ギリシャ語は母語ではない。帝国の共通語としてのギリシャ語が生んだ書き手である。

この時代をどう読むか

中身
読む文学へ図書館と文献学が生まれ、詩人が学者になった
詩の論争短く磨くか長大に語るか。以後のヨーロッパの詩の枠
喜劇の転換政治諷刺から家庭劇へ。西洋喜劇の基本形がここで決まる
素材の供給プルタルコスがシェイクスピアの題材を提供した

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