ウィリアム・シェイクスピア

白い折り襟と金の耳輪をつけた、ウィリアム・シェイクスピアの油彩肖像画(胸から上)。
チャンドス肖像画(作者は諸説あり)
原綴
William Shakespeare
生没
1564–1616
出身
ウォリックシャー州ストラトフォード=アポン=エイヴォン
イギリス
時代
ルネサンス

生涯

1564年、イングランド中部の町ストラトフォード=アポン=エイヴォンに生まれた。父は手袋商で、町の役職にも就いている。地元の文法学校でラテン語を学んだとみられるが、大学には進んでいない。18歳でアン・ハサウェイと結婚し、三人の子をもうけた。

20代後半にロンドンへ出て、俳優兼劇作家として活動を始める。1594年には劇団「宮内大臣一座」の中心の一人になり、1599年にはテムズ川南岸にグローブ座を建てた。劇団の共同経営者であり、興行の収益を分け合う立場にあった。書いた作品は上演のためのもので、出版を前提にしていない。

1603年にエリザベス一世が死ぬと、劇団は新王ジェームズ一世の庇護を受けて「国王一座」となる。シェイクスピアは経済的に成功し、故郷に大きな家を買った。1610年頃に引退してストラトフォードへ戻り、1616年に52歳で死去している。

生涯についての一次資料は限られている。そのため「本当は別人が書いた」とする説が繰り返し現れてきたが、学界の主流は本人の著作と見なしている。

作風

シェイクスピアの言語の扱いは突出している。名詞を動詞に変え、語をつなげて新語を作り、王の高雅な台詞と道化の下ネタを同じ場面に置いた。今日の英語話者が日常で使う言い回しの相当数が、彼の劇に出典を持つ。

この文体は、演劇の条件と結びついている。当時の劇場に舞台装置はほとんどなく、照明もない。場所も時間も天候も、すべて台詞で説明するしかなかった。言葉が背景を描かなければ、観客には何も見えない。この制約が言語を鍛えている。

人物の造形にも特徴がある。悪人が悪人としてだけ書かれず、内面の理屈を語る。マクベスは王を殺す前も殺した後も迷い続け、リア王は自分の判断の誤りを認められないまま壊れていく。善悪の図式で人物を配置していない。

独白(ソリロキー)が、その手段になっている。人物が舞台で一人になり、観客に向かって自分の考えを語る。ハムレットの「生きるべきか、死ぬべきか」がその代表で、決断できない意識の動きが、そのまま言葉になっている。

型は自由である。悲劇に道化を出し、喜劇に死の影を差し込み、王侯と庶民の場面を交互に置く。時間は何年も飛び、場所は国をまたぐ。

作品

ロミオとジュリエット(1595年頃)

敵対する二家の若い男女の悲恋を描く。最も広く知られた作品にあたる。

ハムレット(1600年頃)

父を殺された王子が復讐を先延ばしにし続ける。作品のなかで最も長く、台詞の密度が高い。

リア王(1605年頃)

王国を三人の娘に分け与えようとした老王が、すべてを失って荒野をさまよう。

マクベス(1606年頃)

魔女の予言に唆された将軍が王を殺し、破滅するまでを描く。悲劇のなかで最も短く、筋も単純なため入口に向く。

このほか喜劇に『夏の夜の夢』『十二夜』、史劇に『リチャード三世』『ヘンリー五世』、晩年の『テンペスト』がある。154篇からなるソネット集も残した。

戯曲であるため、上演の映像と併せると理解が早い。翻訳は複数あり、韻文の格調を取るか、舞台上の話し言葉らしさを取るかで方針が分かれる。

文学史における立ち位置と影響

シェイクスピアはイギリス・ルネサンスの頂点にあたる。当時の英語は、ラテン語やフランス語に比べて格の低い言語と見られていた。その英語で最高水準の作品が書かれたことにより、英語が文学の言語として自信を得ていく。

同じ17世紀のフランスと対比すると、特徴が際立つ。フランスでは「三一致の法則」——筋は一つ、場所は一つ、時間は一日以内——が課され、ラシーヌはその内側で悲劇の密度を極限まで高めた。イングランドにこの規則はなく、シェイクスピアは何年もの時間を飛ばし、国をまたぎ、悲劇に道化を出す。同じ時期の演劇が、海峡をはさんで正反対の原理で動いていたことになる。18世紀以降、この対立は「規則か自由か」という論争の形をとった。

ロマン主義がシェイクスピアを再評価したのは、その自由の側を評価したためである。ドイツではゲーテらが受容を主導し、フランスではユゴーが古典主義の規則を打ち倒す根拠として持ち出した。

今日、英語圏では「シェイクスピアの言語」が英語の代名詞として使われる。フランス語が「モリエールの言語」と呼ばれるのと同じ用法で、一人の作家名が国語を代表する例は多くない。上演は世界中で続いており、翻案の数も文学史上で群を抜いている。

日本では明治期に坪内逍遥が全訳を試み、以後も繰り返し訳されている。

作品

登場する文学史