アポロニオス・ロディオス
- 原綴
- Apollonius Rhodius
- 生没
- 前295頃–前215頃
- 出身
- エジプト・アレクサンドリア(またはナウクラティス)
- 国
- ギリシャ
- 時代
- ヘレニズム期
生涯
前295年ごろ、エジプトのアレクサンドリアの周辺に生まれたとされる。学問の都アレクサンドリアで教育を受け、当代最大の図書館の館長を務めたとも伝えられる。詩人であると同時に、学識ある人物だった。
「ロディオス」という呼び名は、「ロドス島の人」を意味する。エーゲ海のロドス島に、長く滞在したことに由来するとされる。アレクサンドリアを離れてロドス島に移り住んだ経緯については、諸説がある。
同時代の大詩人カリマコスとのあいだに、詩のあり方をめぐる論争があったと、古くから伝えられてきた。短く洗練された詩を理想とするカリマコスに対し、アポロニオスは、長篇の英雄叙事詩を書いた。ただし、この論争の実態については、今日では慎重な見方もある。前215年ごろに没した。
作風
アポロニオスの代表作『アルゴナウティカ』は、ホメロスの叙事詩の伝統を受け継ぐ、長篇の英雄叙事詩である。英雄イアソンが、アルゴ船に乗り、金羊毛を求めて、黒海の彼方の地へ航海する冒険の物語をうたう。神話に材をとり、荘重な文体で語る点は、古い叙事詩の伝統に忠実である。
だが、そこには新しい要素が加わっている。それが、恋愛の心理描写である。物語の後半、イアソンは、目的地で王女メデイアと出会う。アポロニオスは、このメデイアが、イアソンへの恋に心を乱し、家族への忠義と、恋心とのあいだで引き裂かれていく、その内面の揺れを、細やかに描いた。英雄の武勲だけでなく、一人の女性の恋の苦悩を、叙事詩の中心に据えたのである。
ヘレニズム時代の学識も、詩に織り込まれている。航海の途上で語られる、各地の地名の由来や、風習の起源。こうした博識な脱線は、同時代の学者的な詩の趣味を反映している。伝統的な叙事詩と、新しい心理描写、そして学識とが、ここで一つに結びついている。
作品
英雄イアソンと、アルゴ船の乗組員たちが、金羊毛を求めて航海する冒険をうたった、全四巻の英雄叙事詩である。とりわけ、王女メデイアが、イアソンへの恋に苦しむ心理を描いた場面が名高い。ホメロス以後、まとまった形で現存する、数少ないギリシャの英雄叙事詩にあたる。
文学史における立ち位置と影響
長大な叙事詩が時代遅れとされたヘレニズム時代にあって、アポロニオスは、あえてホメロス以来の英雄叙事詩の伝統を受け継いだ。しかも、そこに恋愛の心理描写という新しい要素を加えた。ホメロス以後のギリシャ英雄叙事詩を代表する詩人である。
とりわけ、恋に苦しむメデイアの内面の描写は、後世に大きな影響を与えた。人間の、とりわけ女性の恋心の揺れを、繊細に描くこの手法は、ローマの詩人ウェルギリウスに受け継がれた。叙事詩『アエネイス』における、女王ディドの悲恋の描写は、アポロニオスのメデイアに多くを負っている。
英雄の物語に、個人の恋の苦悩を織り込んだアポロニオスの叙事詩は、古代叙事詩の一つの新しい可能性を示した。ホメロスと、ローマの叙事詩とをつなぐ、重要な環とされている。