メナンドロス

原綴
Menander
生没
前342頃–前291頃
出身
アテナイ
ギリシャ
時代
ヘレニズム期

生涯

前342年ごろ、アテナイに生まれた。この時代、アテナイは、かつての民主政の全盛期を過ぎ、大国の支配下に入りつつあった。市民が政治を自由に論じることのできた時代は、終わりに近づいていた。

こうした時代の変化が、演劇にも及んだ。かつてアリストパネスが書いた喜劇は、実在の政治家を実名で嘲笑し、政治を大胆に風刺する「旧喜劇」だった。だが政治を自由に風刺できなくなった時代に、喜劇は、政治から日常へと主題を移した。この新しい喜劇、すなわち「新喜劇」を代表するのが、メナンドロスである。

数多くの喜劇を書き、当時、高い評価を得た。だがその作品は長く失われ、断片でしか知られていなかった。二十世紀に入って、エジプトの砂漠からパピルスの写本が発見され、ようやく、まとまった作品を読めるようになった。前291年ごろに没した。

作風

メナンドロスの喜劇は、市民の日常生活を舞台にする。政治や公共の問題ではなく、家庭のなか、恋人どうしのあいだで起きる、身近な出来事が描かれる。若者の恋、親子の対立、身分違いの恋の成就、生き別れた家族の再会。誰もが共感できる、ありふれた人間の営みが、笑いの種になる。

登場人物は、しばしば決まった型をもつ。頑固な老人、恋に悩む若者、機転のきく奴隷、高慢な兵士。こうした、性格の類型化された人物たちが、すれ違いや勘違いを繰り広げる。この、型にはまった人物と、筋の運びの妙とが、新喜劇の面白さの核心である。

その笑いは、辛辣というより、人間味にあふれている。人間の愚かさや弱さを、意地悪く嘲笑するのではなく、あたたかく、共感をこめて描く。「人間らしい者は一人もいないほど、彼は人間だ」といった、人間性への洞察に富む名言も、メナンドロスの作品に由来する。

作品

『気むずかしい男(ディスコロス、Dyskolos)』

田舎に住む、人間嫌いで気むずかしい老人をめぐる喜劇である。この老人の娘に恋した若者が、老人にどう気に入られるかをめぐって、騒動が繰り広げられる。二十世紀にパピルスから、ほぼ完全な形で発見された、メナンドロスの唯一の全篇であり、その作風を知るうえで貴重な作品である。

このほか『サモスの女』『仲裁裁判』などが、比較的まとまった形で伝わっている。

文学史における立ち位置と影響

市民の日常と恋愛を描くメナンドロスの新喜劇は、政治を風刺した旧喜劇に代わって、後のヨーロッパの喜劇の、直接の原型となった。新喜劇を代表する劇作家である。

その影響は、ローマを経て後世に及んだ。ローマの喜劇作家プラウトゥスやテレンティウスは、メナンドロスら新喜劇の作品を、ラテン語に翻案した。そしてこのローマ喜劇を通して、恋人たちのすれ違いや、勘違いの騒動といった新喜劇の型は、ルネサンス以降のヨーロッパの喜劇へと受け継がれた。近代の喜劇の筋立ての多くは、その源をメナンドロスにさかのぼる。

長く作品が失われていたため、その真価が直接に確かめられるようになったのは、二十世紀の写本発見以降のことである。ヨーロッパ喜劇の父として、その位置はあらためて確認された。

登場する文学史