ルキアノス

原綴
Lucian
生没
125頃–180以降
出身
シリア・サモサタ
ギリシャ
時代
ヘレニズム期

生涯

125年ごろ、ローマ帝国の東部、シリアのサモサタに生まれた。ギリシャ人ではなく、東方の出身である。母語はギリシャ語ではなかったとみられるが、みずからギリシャ語を学び、その文章の名手となった。異文化から来た者として、ギリシャ・ローマの文化を、いくぶん外側から、醒めた目で眺める視点をもっていた。

はじめは弁論家として、各地をめぐり、人々の前で演説を披露して生計を立てた。やがて弁論から、諷刺的な対話や物語の執筆へと転じた。ローマ帝国が最も栄えた時代を生き、帝国各地を旅した。晩年にはエジプトで官職についたとも伝えられる。180年以降に没した。

作風

ルキアノスの文学の身上は、鋭い諷刺と、機知にある。神々、哲学者、そして人間の愚かさや虚栄を、笑いによって容赦なく暴き出す。多くは、登場人物どうしが語り合う対話の形をとる。軽妙な会話のなかで、権威や俗信が、こっけいに引きずり下ろされる。

懐疑の精神が、その根にある。ルキアノスは、神々の物語をまじめに信じることも、哲学者たちの、もっともらしい教説をありがたがることも、しなかった。『神々の対話』では、オリンポスの神々を、嫉妬や欲にまみれた、人間くさい存在として描き、その権威をからかった。あらゆる権威を疑い、笑いのめすその姿勢が、ルキアノスの一貫した態度である。

空想の物語も書いた。代表作『本当の話』は、その題とは正反対に、まったくの作り話である。船が嵐で空高く吹き上げられ、月の世界にたどり着き、そこで太陽の住人と戦争をする、といった荒唐無稽な冒険がうたわれる。ルキアノスは、これを、当時の作家たちが、もっともらしく語る法螺話への、諷刺として書いた。

作品

『本当の話(真実の物語)』

船乗りたちが、嵐によって月の世界へ運ばれ、奇怪な冒険を繰り広げる、荒唐無稽な空想の物語である。作者みずから、これはすべて嘘であると宣言している。当時の、事実と称して法螺を語る旅行記や歴史書を、諷刺したものである。月旅行や異世界を描いた点で、後の空想科学小説の、遠い先駆とされる。

『死者の対話』『神々の対話』は、死後の世界や、神々の世界を舞台に、人間の虚栄や、神々の権威を、機知に富む会話で風刺した対話集である。

文学史における立ち位置と影響

神々、哲学、そして人間の愚かさを、機知に富む対話によって笑いのめす。ルキアノスのこの手法は、後世の諷刺文学に、豊かな手本を提供した。古代を代表する諷刺作家である。

その影響は、ルネサンス以降のヨーロッパで、大きく開花した。ルキアノスの対話は、この時代に再発見され、広く読まれた。人文主義者エラスムスや、『ユートピア』を書いたトマス・モアは、ルキアノスを愛読し、その諷刺の精神を受け継いだ。あらゆる権威を疑い、笑いによって批判するその態度は、近代の諷刺文学の源流となった。

空想の月旅行を描いた点でも、その先駆性は際立っている。現実にはありえない世界を描くことで現実を照らし出すという手法は、後の空想文学に、繰り返し受け継がれていく。醒めた懐疑と、自由な想像力をあわせもった作家とされている。

登場する文学史