ロミオとジュリエット
- 原題
- Romeo and Juliet
- 作者
- ウィリアム・シェイクスピア
- 成立
- 1595頃
- 国
- イギリス
- 時代
- ルネサンス
概要
1595年前後に書かれた五幕の悲劇である。北イタリアの都市ヴェローナで反目するモンタギュー家とキャピュレット家の子が恋に落ち、身分違いならぬ家名違いのために死ぬ。
作品の冒頭には、十四行の詩形をとった前口上が置かれる。ここで語り手は、この二人が星回りに逆らって結ばれ、死によって親たちの争いを終わらせるという結末を、あらかじめ観客に告げてしまう。筋の結末を最初に明かしたうえで、なぜそうなるかを見せる構成になっている。
作中の時間は極端に短い。日曜の夜の宴で出会い、月曜に結婚し、火曜の未明に別れ、木曜の未明に二人とも死ぬ。約五日である。材源にあたる先行作では数か月かかっており、シェイクスピアはこれを大幅に圧縮した。
言葉の扱いには、当時流行していた恋愛詩の形式が持ち込まれている。二人が初めて言葉を交わす場面は、巡礼と聖像の比喩を交互に受け渡す形で進み、全体が一篇のソネット(十四行詩)の形になっている。恋の言葉が詩の形式そのものとして交わされる。
1591年から1596年の間、通説では1595年前後の執筆とされる。1597年に最初の四つ折本が出ており、それ以前の上演は確実である。この第一・四つ折本は短く不正確で、俳優の記憶に頼って復元されたものと見られる。1599年の第二・四つ折本が、現在の本文の基礎になっている。
材源は、1562年にアーサー・ブルックが刊行した長篇の物語詩『ロウミアスとジューリエットの悲しき物語(The Tragicall Historye of Romeus and Iuliet)』である。この筋自体はイタリアに起源があり、16世紀前半のルイジ・ダ・ポルトが人物名と舞台をヴェローナに定め、マッテオ・バンデッロを経てフランス語訳になり、それをブルックが英訳した。物語の骨格は借り物にすぎない。
シェイクスピアが変えたのは時間と人物である。ブルックでは恋人たちの関係は九か月におよぶ。それを五日に縮めたことで、判断の余地のない速度が生まれた。ジュリエットの年齢も、ブルックの十六歳から十三歳に下げられている。乳母とマキューシオはほとんど新しく作られた人物で、乳母の饒舌とマキューシオの毒舌が、恋愛の言葉と対をなす。ブルックは序文でこの話を、親の権威に背いた若者への戒めとして提示していたが、その道徳的な枠組みは劇に引き継がれていない。
文学史における評価と影響
シェイクスピアの初期の悲劇にあたり、四大悲劇より十年ほど早い。悲劇でありながら前半は喜劇の運びで進み、マキューシオが死ぬ第三幕を境に調子が反転する。この転換の設計は、以後の作品にも受け継がれた。
破滅の原因が人物の性格の欠陥に求められないことが、この作品の特徴である。二人は判断を誤ってはいるが、致命的なのは、疫病で手紙が届かなかったこと、目覚める時刻が数分ずれたことである。偶然と、両家の争いという外側の条件が、若い二人を潰す。 前口上が二人を「星に呪われた恋人たち」と呼ぶのは、この構造を指している。
若い恋人の悲劇という主題そのものは、ローマのオウィディウスが変身物語に記したピュラモスとティスベの話に遡る。壁越しに愛し合い、思い違いから相次いで死ぬ二人の話で、シェイクスピア自身、同じ時期の喜劇『夏の夜の夢』の劇中劇でこれを笑いの種にしている。同じ材料を、片方では悲劇に、片方では笑劇に仕立てていることになる。
翻案の数はシェイクスピア作品の中でも突出している。オペラではグノーとベッリーニ、管弦楽ではチャイコフスキーとベルリオーズ、バレエではプロコフィエフ。1957年のミュージカル『ウエスト・サイド物語』は、舞台をニューヨークの移民街に、二家の反目を若者集団の対立に移した。映画も繰り返し作られ、1968年のフランコ・ゼフィレッリ版、1996年のバズ・ラーマン版がよく知られる。
バルコニーの場面と「おおロミオ、なぜあなたはロミオなの」という台詞は、作品を離れて通用する。この台詞は居場所を尋ねているのではなく、なぜモンタギュー家の名を持って生まれたのかを嘆くものだが、誤解されたまま引かれることも多い。
日本では明治期に紹介され、坪内逍遥をはじめ繰り返し訳されている。上演回数もシェイクスピア劇の中で最も多い部類に入る。
あらすじ
第一幕。ヴェローナでは二つの名家が長年反目し、使用人同士の喧嘩が街頭の乱闘に発展する。大公は、次に街の平和を乱した者は死罪だと宣告する。モンタギュー家の息子ロミオは、ロザラインという女性に思いを寄せて振られ、ふさぎ込んでいる。友人たちに誘われ、素顔を隠してキャピュレット家の仮面舞踏会に忍び込む。そこでキャピュレット家の一人娘ジュリエットを見て、たちまち心を移す。二人は言葉を交わし、口づけを交わしてから、互いが敵の家の子であることを知る。
第二幕。ロミオはキャピュレット家の庭に忍び込み、バルコニーに出たジュリエットが、なぜあなたはロミオなのか、名を捨ててほしいと独りごちるのを聞く。姿を現し、二人は結婚を誓う。翌日、ロミオの相談役である修道士ロレンスが、この結婚が両家の和解につながることを期待して、密かに式を執り行う。
第三幕。その日の午後、街頭でキャピュレット家のティボルトがロミオに決闘を挑む。すでに親戚になったロミオは受けず、代わって友人マキューシオが応じ、ロミオが割って入った隙に刺されて死ぬ。ロミオはティボルトを討つ。大公は死罪を減じ、ロミオをマントヴァへ追放する。二人は初夜を過ごし、夜明けに別れる。父キャピュレットは、娘の悲嘆をティボルトの死のためと考え、パリス伯との結婚を三日後に決める。
第四幕。ジュリエットはロレンスに助けを求める。ロレンスは、四十二時間仮死状態になる薬を渡す。式の朝に死体として発見させ、一族の墓所に葬られたあとで目覚めさせ、マントヴァから呼び寄せたロミオと落ち合わせる計画である。ジュリエットは薬を飲み、翌朝、死んだものとして墓所へ運ばれる。
第五幕。計画を伝える手紙を託された使者は、疫病の隔離に巻き込まれてマントヴァに着けない。ロミオは別の従者から、ジュリエットが死んだという知らせだけを受け取る。毒薬を買い、墓所へ向かう。入口でパリスと鉢合わせて斬り、眠るジュリエットの傍らで毒を飲んで死ぬ。目覚めたジュリエットは、傍らの死体を見て、ロミオの短剣で自らを刺す。駆けつけたロレンスがすべてを語り、モンタギューとキャピュレットの当主は握手し、互いの子の像を金で建てることを約束する。