パルムの僧院

原題
La Chartreuse de Parme
作者
スタンダール
成立
1839
フランス
時代
19世紀

概要

1839年に刊行された長篇小説である。全二巻。

舞台はナポレオン没落後の北イタリアで、パルム公国という小さな絶対君主国が中心になる。実在の公国だが、作中の宮廷と人物は架空である。冒頭にワーテルローの戦いの場面が置かれる。

主人公ファブリス・デル・ドンゴは、貴族の次男で、十七歳から三十歳前後までが追われる。周囲では伯母のジーナと宰相モスカ伯爵が宮廷の争いを続けている。

スタンダールはこの作品を、五十三日で口述筆記させて仕上げた。

スタンダールは1839年11月、イタリアで手に入れた古い写本をもとに執筆を始めた。16世紀の教皇の甥アレッサンドロ・ファルネーゼの生涯を記した文書で、若い貴族が女性関係の事件を起こして塔に幽閉され、脱獄する、という筋がある。スタンダールはこれを19世紀に移した。

執筆は口述による。1838年11月4日から12月26日まで、五十三日で書き上げられた。当時スタンダールは五十五歳で、パリに滞在していた。

刊行後まもなく、バルザックが長い書評を書いた。この作品を最高の評価で論じたうえで、冒頭のワーテルローの場面と最後の部分は削るべきだと助言している。スタンダールは礼状を書き、実際に改稿に着手したが、途中で中断した。1842年に死去している。

生前の評価は限られていた。スタンダールは自分が同時代に読まれないことを承知しており、1880年ごろに読者を得るだろうと書き残している。実際、本格的な評価は19世紀末以降になる。

文学史における評価と影響

ワーテルローの場面が最もよく論じられる。主人公は戦場にいながら、自分が歴史的な戦闘の中にいることを認識できない。煙、音、混乱、意味の分からない移動が続く。

この書き方は、戦争を上から俯瞰して描く従来の方法と逆にあたる。個人の視野からは全体が見えない、という前提で戦場が書かれる。トルストイ戦争と平和でアウステルリッツの戦いを同じ方法で書いており、この場面を読んでいたことが分かっている。

牢獄の扱いも指摘される。ファブリスは塔に入ってから最も幸福になる。自由を奪われた場所で、はじめて心が定まる。スタンダール自身、幸福は制約のうちにしか成立しないという趣旨のことを繰り返し書いている。

赤と黒との対比もよく行われる。ジュリヤンは貧しい出身で、上昇のためにあらゆる計算をする。ファブリスは生まれつき恵まれており、計算をしない。宮廷の陰謀を組み立てるのは伯母のジーナで、ファブリス自身は流されている。

宮廷の描写は、小国の政治の実態を扱った資料としても読まれる。密告、検閲、恩赦の駆け引き、公の気まぐれ。スタンダールはナポレオン期に軍務と行政に関わり、後にイタリアで領事を務めた経験を持つ。

あらすじ

北イタリア、コモ湖畔の貴族の家に生まれたファブリス・デル・ドンゴは、ナポレオンに憧れている。父の侯爵はオーストリア側についており、家の中で孤立している。

十七歳のファブリスは家を出て、フランス軍に加わろうとする。1815年6月、ワーテルローの戦場に着く。

だがファブリスには何が起きているか分からない。パスポートがないためスパイと疑われ、投獄され、脱走し、部隊を探して野を歩き回る。従軍商人の女に助けられ、元帥の馬を買い、その馬を兵に取られる。砲声を聞き、煙の中を進み、死体をまたぐ。後になって、自分が参加したのが有名な戦いだったと知る。

イタリアに戻る。伯母のジーナ——後のサンセヴェリーナ公爵夫人——がファブリスを庇護する。ジーナはパルム公国の宰相モスカ伯爵の愛人であり、宮廷で力を持っている。

ジーナはファブリスに聖職者の道を歩ませ、将来は大司教にしようと考える。ファブリスは信仰を持たないまま神学校に入る。

ファブリスは女優マリエッタと関わり、その情夫を決闘の末に刺し殺す。正当防衛だが、宮廷の反対派がこれを利用する。ファブリスは逮捕され、ファルネーゼ塔という高い塔に収監される。

塔の窓から、要塞司令官の娘クレリア・コンティが見える。クレリアは鳥小屋の世話をしている。二人は文字盤と合図で意思を通わせるようになる。ファブリスは、この牢にいるあいだが自分の生涯で最も幸福だと感じる。

毒殺の危険が迫り、ジーナは脱獄を計画する。クレリアは、父の職務を裏切ることになるため苦しむが、最後は縄を運ぶ。ファブリスは塔を降りて逃げる。

クレリアは、脱獄を助けた罪の償いとして、聖母に誓いを立てる。二度とファブリスを見ない、という誓いである。そして父の選んだ侯爵と結婚する。

ジーナは、ファブリスの助命のため、公にある約束をする。その後、公の毒殺に関わる。

ファブリスは大司教になり、説教で評判をとる。だがその説教は、クレリアに聞かせるために行われている。

二人は再会するが、クレリアは誓いを守り、暗闇でしか会わない。子が生まれる。ファブリスはその子を自分の手元に置きたいと望み、病気を装う計画を立てる。子は実際に病気になって死ぬ。まもなくクレリアも死ぬ。

ファブリスは職を辞し、パルム近郊の僧院に入る。一年ほどで死ぬ。ジーナもその後まもなく死ぬ。

作者

登場する文学史