狂えるオルランド

原題
Orlando Furioso
作者
アリオスト
成立
1516-1532
イタリア
時代
ルネサンス

概要

1516年に40歌で刊行され、改訂を重ねて1532年に46歌の決定版が出た長篇の物語詩である。約38700行。

背景は、シャルルマーニュ(カール大帝)率いるキリスト教勢力と、パリを包囲するイスラム勢力の戦争である。だが戦争は舞台装置にすぎない。主要な筋だけで三本あり、そこから枝分かれした挿話が数十本、たえず中断されながら並行して進む。

一つは、シャルルマーニュ配下の勇士オルランドが、東方から来た王女アンジェリカを追い、恋に狂って正気を失う筋。もう一つは、女戦士ブラダマンテとイスラム側の騎士ルッジェーロの恋。この二人が、この詩を献じられたエステ家の祖先という設定になっている。三つ目が戦争そのものの推移である。

語りの手つきに特徴がある。ある人物の危機の場面で唐突に話を切り、別の筋へ移る。語り手は顔を出して読者に話しかけ、自分の恋を嘆き、女性論を述べ、そして「さて先ほどの騎士に戻ろう」と言う。中断すること自体が技法として使われている。

アリオストは1474年、レッジョ・エミリアの生まれ。フェラーラのエステ家に仕え、宮廷人・外交官として働きながら書いた。詩作に専念する時間は乏しく、この作品は十年以上かけて書かれている。

先行するのは、同じエステ家に仕えたマッテーオ・マリーア・ボイアルドの『恋するオルランド(Orlando Innamorato)』である。1494年に作者が死去して未完に終わった作品で、アリオストはその続きとして書き始めた。冒頭は前作の状況をそのまま引き継ぐ。

さらに遡ると、素材は中世フランスの武勲詩にある。シャルルマーニュとその十二勇士の物語群で、ローランの歌がその中心にある。フランスの武勲詩では、ローランは信仰と忠義に殉じる英雄である。 イタリアに伝わる過程で、この人物像は変質し、恋愛と魔法と冒険の要素が加わった。アリオストの作品では、その変質が極点に達している。

刊行後は版を重ね、16世紀のヨーロッパで最も広く読まれた俗語文学の一つになった。アリオストは1533年に死去した。

文学史における評価と影響

騎士道物語の頂点であり、同時にその解体でもあるという位置づけが定着している。騎士たちは高潔な理想のために戦うのではなく、恋と嫉妬と虚栄で動く。最強の勇士が女に振られて発狂し、その正気は月に置き忘れられている。作品は英雄を讃えながら、たえず笑っている。

構成の面では、多数の筋を交互に進める手法が特筆される。中世の物語群にも先例はあるが、この作品では中断と再開が計算され、読者の期待を操作する道具になっている。語り手が介入して脱線するという書き方も、後の小説に影響を与えた。スターントリストラム・シャンディはその系譜に置かれる。

韻律はオッターヴァ・リーマ(八行詩節)で、以後イタリアの物語詩の標準になった。英語圏ではバイロンがこの詩形を用いており、バイロンの長篇詩の軽妙な脱線もアリオストの影響下にある。

後続への影響では、まずタッソ解放されたエルサレムがある。半世紀後に書かれたこの作品は、同じ形式を用いながら、統一された筋と宗教的な真面目さを取り戻そうとした。当時のイタリアでは、二作のどちらが優れるかをめぐる長い論争が続いた。

騎士道物語の解体という点では、セルバンテスの『ドン・キホーテ』の前段にあたる。作中で焚書を免れる書物の一つとしてこの作品が挙げられている。

日本では抄訳が中心で、全訳は限られる。長大で登場人物が多く、通読は容易ではない。

あらすじ

物語は、先行作の続きから始まる。カタイ(中国)の王女アンジェリカが、キリスト教陣営の陣中から逃走するところが冒頭にあたる。

オルランドはアンジェリカを追って戦線を離れる。他の騎士たちも同様に追い、森の中で追跡が交錯する。魔術師アトランテが幻の城を作り、騎士たちを次々に閉じ込める。城の中では、それぞれが自分の探し求める相手の幻を見て、廊下を追い回り続ける。

アンジェリカは、傷ついた身分の低いイスラム兵メドーロを介抱し、恋に落ちて結婚する。二人は洞窟や木の幹に、互いの名を刻んで去る。

追ってきたオルランドが、その刻まれた名を読む。信じまいとして何度も読み直し、羊飼いから経緯を聞かされ、二人が泊まった寝台を見せられる。そこで正気を失う。鎧を脱ぎ捨て、衣を裂き、裸で野を駆け、木を根こそぎ引き抜き、行き合う人と家畜を殺す。数か月にわたって暴れ続ける。

イングランドの騎士アストルフォが救出に向かう。ヒッポグリフ(鷲と馬の合成獣)に乗って地上を巡り、エチオピアを経て、火の車で月へ昇る。月には、地上で失われたものがすべて集められている。 果たされなかった誓い、無駄にされた時間、叶わなかった祈り、そして人が失った正気が、瓶に詰めて並んでいる。アストルフォは、オルランドの名の記された瓶を見つけ、ついでに自分の分も吸い込む。地上に戻り、押さえつけたオルランドの鼻に瓶を当てる。オルランドは正気に返り、同時にアンジェリカへの恋も消えている。

戦争は決着へ向かう。オルランドは戦列に復帰し、イスラム側の王アグラマンテらとの一騎打ちで勝つ。ブラダマンテとルッジェーロの筋も結着する。ルッジェーロは洗礼を受け、両家の反対を越えて結ばれる。婚礼の場に、かつての同僚ロドモンテが現れて裏切りを責める。ルッジェーロはこれを討ち、ロドモンテの魂が呻きとともに冥界へ下るところで詩は終わる。

作者

登場する文学史