ローランの歌
- 原題
- La Chanson de Roland
- 作者
- 作者不詳
- 成立
- 1100年頃
- 国
- フランス
- 時代
- 中世
概要
読むための本ではなく、歌うためのものだった。約四千行の詩で、吟遊詩人が貴族の館や巡礼路で、楽器に合わせて語り聞かせた。同じ言い回しが繰り返し出てくるのは、耳で聞く人のために作られているからである。この形式を武勲詩(シャンソン・ド・ジェスト)と呼び、この作品はその代表にあたる。
内容は、たった一つの戦いとその後始末である。シャルルマーニュの軍がスペインから帰る途中、後衛を任された騎士ローランがピレネーの峠で敵の大軍に囲まれる。角笛を吹けば本隊が助けに来る。だがローランは吹かない。助けを求めることは騎士の恥だと考えるからである。 部隊は全滅し、ローランは死ぬ。後半は、シャルルマーニュによる復讐と、裏切り者の処刑が語られる。
もとになった出来事は史実にある。778年、シャルルマーニュ軍の後衛がピレネー山中で襲撃され、全滅した。ただし史実の襲撃者は地元のバスク人だった。 この詩ではイスラム教徒に置き換えられ、キリスト教と異教との聖戦として語り直されている。
書き換えの理由は、成立した時代にある。11世紀末から12世紀初頭、第一回十字軍の熱狂のただ中である。三百年前の山賊の待ち伏せが、当時の読者が理解できる形——信仰のための戦い——に作り直された。
作者は分かっていない。写本の末尾に「テュロルドゥス」という名が記されているが、作者なのか筆写者なのかも決着していない。最も古く優れた写本は12世紀のオックスフォード写本で、この一本によって作品は伝わった。
文学史における評価と影響
フランス文学の出発点に置かれる作品である。フランス語で書かれた最古の本格的な文学作品として、その位置は動いていない。
内容の面では、中世の封建社会の価値観を伝える。主君への忠誠、騎士の名誉、キリスト教への信仰。この三つが人物の行動をすべて決めており、それ以外の動機が出てこない。 ローランが角笛を拒むのは、命よりも名誉が上に来るからである。
ローランとオリヴィエの対比も繰り返し論じられてきた。ローランは猪突猛進の勇者、オリヴィエは思慮深い賢者である。ローランは勇猛だが、オリヴィエは賢明だ、という一節が名高い。そしてローランの勇気は、その無謀さゆえに部隊を全滅させる。この詩は主人公を称えながら、その判断が正しかったとは書いていない。
聖戦としての性格は、この作品を読みにくくしてもいる。異教徒は単純な悪として描かれ、その殺戮が称揚される。作品の価値と、その価値観をそのまま受け取れないこととを分けて読む必要がある。その意味で、この詩は十字軍の時代の心性を映す資料でもある。
後世への影響は広い。シャルルマーニュとその騎士たちの物語群は中世ヨーロッパで繰り返し語り直された。イタリアではこれがアリオストの狂えるオルランドへ発展する。「オルランド」は「ローラン」のイタリア語形にあたる。 タッソの叙事詩もこの系譜に連なる。
あらすじ
シャルルマーニュの大軍は、七年にわたるスペイン遠征を終えて帰還しようとしている。イスラム側の王マルシルが和睦を申し出る。その使者に誰を送るかで内輪の対立が生じる。 勇将ローランは義父ガヌロンを推薦する。危険な任務に指名されたガヌロンはこれをローランの悪意と受け取り、復讐を誓う。
ガヌロンはイスラム側と内通する。シャルルマーニュ軍がピレネーの峠を越える際、後衛をローランに指揮させ、そこを大軍に襲わせるという計略をめぐらす。
計略どおり、後衛部隊はロンスヴォーの峠で圧倒的な数のイスラム軍に包囲される。盟友オリヴィエは、角笛オリファンを吹いて本隊に援軍を求めるよう勧める。だがローランは拒む。 助けを呼ぶことは騎士の名誉に反する、と。ローランは少数の部隊で大軍に立ち向かう。
激烈な戦いが続く。フランク軍は奮戦して多くの敵を討つが、多勢に無勢で、仲間は次々に倒れる。オリヴィエも、大司教テュルパンも討たれる。部隊が全滅寸前になって、ようやくローランは角笛を吹く。 だがもう遅い。全力で吹き鳴らしたため、こめかみの血管が切れる。
瀕死のローランは、愛剣デュランダルを敵に渡すまいと岩に打ちつけるが、剣は砕けない。そして顔を敵の方角ではなくスペインの方角へ向けて——征服者として死ぬために——横たわり、天使に魂を迎えられて息絶える。
角笛の音を聞いたシャルルマーニュは引き返す。だが間に合わない。峠には味方の屍が累々と横たわっていた。シャルルマーニュは嘆き、イスラム軍を追撃して壊滅させ、復讐を遂げる。
帰還したシャルルマーニュは裏切り者ガヌロンを裁く。ガヌロンは四頭の馬に四肢を繋がれ、引き裂かれて処刑される。 物語は、なおも続く異教徒との戦いを命じる天使の声を、シャルルマーニュが聞く場面で閉じられる。