社会契約論

原題
Du contrat social
作者
ジャン=ジャック・ルソー
成立
1762
フランス
時代
18世紀

概要

1762年4月に刊行された政治論である。分量は短く、日本語訳で二百ページ前後になる。全四編。

副題に「政治的権利の諸原理」とある。実在する国家の記述ではなく、正当な統治がどういう条件で成り立つかを組み立てる本にあたる。

冒頭の一文が広く知られる。人間は自由なものとして生まれた、しかしいたるところで鎖につながれている。

ルソーの問いはここから始まる。人が服従しなければならないのはなぜか。力による支配は正当性を持たない。力に従うのは義務ではなく必要にすぎず、より強い力が現れれば従う理由は消える。では何が服従を正当化するのか。

答えとして置かれるのが契約である。各人が自分の権利をすべて共同体に譲り渡す。全員が同じ条件で譲るので、誰も他人より不利にならない。そして各人は、その共同体の一員として、自分自身に従うことになる。

ルソーは1712年、ジュネーヴの時計職人の家に生まれた。ジュネーヴは当時フランスではなく、独立した共和国だった。この本の随所に、小規模な共和国を前提とした記述がある。

刊行は匿名で、検閲を避けるためオランダのアムステルダムから出された。それでも同年6月、パリ高等法院はエミールとともにこの本を断罪し、ルソーの逮捕状を出した。ルソーはスイスへ逃れる。ジュネーヴでも二冊は焼かれ、ルソーは入国を禁じられた。

エミールの刊行はこの一か月後で、そちらの第四編には、この本の要約が組み込まれている。

ルソーは1778年に死去した。1794年、フランス革命の最中に遺骨がパンテオンへ移された。

文学史における評価と影響

一般意志の概念が最も論じられる。各人の利益の集計ではなく、全体にとっての善を考えたときに現れるものという規定は、実際に何を指すのかが判定しにくい。この曖昧さが解釈の幅を生んできた。

とくに議論の対象になるのが、第一編の一節である。一般意志に従うことを拒む者は、全体によって従うよう強制される。それは「自由であるよう強制される」ことにほかならない、と書かれている。

この一節は、二つの正反対の読み方をされてきた。人民主権と民主主義の理論的な基礎とする読み方と、多数派の名による強制を正当化する論理の起源とする読み方である。20世紀には後者の立場から、全体主義との連続を指摘する議論が繰り返し出た。

フランス革命での受容は明白である。ロベスピエールはルソーを繰り返し引用した。人権宣言の第六条「法は一般意志の表明である」は、この本の文言による。

代表制への批判も繰り返し参照される。イギリス人が自由なのは選挙の瞬間だけだ、という一節は、間接民主制の限界を論じるときに引かれ続けている。

なおルソー自身は、この理論が大国に適用できるとは考えていなかった。全員が集まって直接決定できる規模、つまり古代の都市国家かジュネーヴのような小共和国が想定されている。この前提を外して読むと、議論の性質が変わる。

内容

第一編では、社会の起源が扱われる。家族も力も奴隷制も、支配の正当な根拠にならないことが順に否定される。そのうえで社会契約が提示される。各人が自分と自分の権利のすべてを共同体に譲り渡す。譲る先が特定の誰かではなく全体であるため、誰の支配下にも入らない。

第二編で一般意志が説明される。

一般意志は、全員の意志の寄せ集めではない。各人が自分の利益を考えて出した意見を足し合わせたものを、ルソーは「全体意志」と呼んで区別する。一般意志は、共同体全体にとって何が善いかを考えたときに現れるものである。

主権は一般意志の行使にあたる。ルソーは、主権が譲り渡せないこと、分割できないことを主張する。したがって代表による統治は主権の行使ではない。

法は一般意志の表明であり、全員に等しく適用される。特定の個人に向けた命令は法ではない。

ここで立法者という人物が持ち出される。まだ法を持たない人民が、自分たちで良い法を作ることはできない。法によって作られるはずの市民が、その法を作らなければならない、という循環がある。そこで、外部から来て制度を設計する例外的な人物が想定される。ルソーはリュクルゴスやモーセを例に挙げる。

第三編は政府を扱う。政府は主権者ではなく、その執行機関にすぎない。政府の形態は、民主政、貴族政、君主政に分けられ、国の大きさや気候によって適したものが違うとされる。

ルソーは、代表制を批判する。ここでイギリスに触れる。イギリス人は自分を自由だと思っているが、それは大間違いで、自由なのは議員を選挙する瞬間だけであり、選挙が終われば奴隷に戻る、と書かれている。

第四編では、投票、選挙、古代ローマの制度が扱われる。

末尾に市民宗教の章が置かれる。ルソーは、国家には最低限の信条が必要だと論じる。神の存在、来世、社会契約と法の神聖さ、そして不寛容の禁止。これを認めない者は国外に追放してよく、認めておきながら反する行いをした者は死刑にしてよい、と書かれる。

作者

登場する文学史