ナタリー・サロート

原綴
Nathalie Sarraute
生没
1900–1999
出身
ロシア・イヴァノヴォ
フランス
時代
20世紀以降

生涯

1900年、ロシアのイヴァノヴォに、ユダヤ系の家に生まれた。幼いころに両親が離別し、母とパリに移り住んだ。以後、フランスで育ち、フランス語で書いた。大学で法律と文学を学び、弁護士として働いた時期もある。

1930年代の終わり、最初の作品『トロピスム』を発表した。だがこの実験的な散文は、当初ほとんど注目されなかった。第二次大戦下、ユダヤ系であるために危険にさらされながら、身を隠して過ごした。

戦後、ロブ=グリエビュトールら、従来の小説に挑む作家たちの活動が「ヌーヴォーロマン」として注目されると、その先駆者として、サロートも再評価された。以後も長く旺盛に書き続け、九十九歳まで生きて、1999年に没した。

作風

サロートの文学が生涯追い求めたのは、「トロピスム」と名づけた、微細な心の動きである。トロピスムとは、もとは植物が光や刺激に反応して動く性質を指す生物学の語である。サロートはこれを、人が意識するより前に、心の底で一瞬うごめく、名づけようのない感情の動きの意味で用いた。

その関心は、会話の裏側に向かう。人が言葉を交わすとき、口に出される言葉の下では、警戒、反発、媚び、恐れといった、微細な心の反応が、たえずうごめいている。サロートは、この語られない心の動きを、言葉の表面の下からすくい上げようとした。

そのため、その小説には、明確な筋も、輪郭のはっきりした登場人物もない。誰の心の動きなのかも、しばしば曖昧なままである。読者は、名づけがたい感情のさざ波を、そのまま感じ取ることを求められる。この、意識の手前の領域の探究が、サロートの一貫した仕事だった。

作品

『トロピスム(Tropismes)』(1939年)

短い断章を連ねた散文集である。日常のありふれた場面の下でうごめく、微細な心の動きをとらえようとした。サロートの出発点であり、その文学の主題をすでに示している。

『黄金の果実(Les Fruits d'or)』(1963年)

一冊の小説をめぐる、人々のうわさや評価の移り変わりを描いた作品である。作品そのものではなく、それを取り巻く人々の心のさざ波を主題にした。

晩年の自伝的な作品『子供時代(Enfance)』は、幼い日の記憶を、二つの声の対話としてたどった作品で、広く読まれた。

文学史における立ち位置と影響

サロートは、ヌーヴォーロマンの先駆者として文学史に名を残す。ロブ=グリエが事物の外面の描写に向かったのに対し、サロートは、意識のすぐ下でうごめく内面の微細な動きへと向かった。同じく従来の小説を疑いながら、その探究の方向は対照的である。

その仕事は、二十世紀初頭にプルーストジョイスが切り開いた、意識の流れを描く試みを、さらに極限まで推し進めるものだった。言葉になる手前の心の領域を描こうとするその挑戦は、小説がとらえうる人間の内面の範囲を大きく広げた。

長い無名の時代を経て、戦後に先駆者として認められたその歩みも、サロートを特徴づけている。名づけがたいものを言葉にしようとし続けた作家として、二十世紀フランス文学に独自の位置を占めている。

関連する文芸思潮・文学運動

登場する文学史