アラン・ロブ=グリエ

原綴
Alain Robbe-Grillet
生没
1922–2008
出身
ブルターニュ地方ブレスト(現・フィニステール県)
フランス
時代
20世紀以降

生涯

1922年、ブルターニュのブレスト(現・フィニステール県)に生まれた。もとは農業技師で、熱帯の農園で植物の研究に従事した。文学とは無縁の科学者としての経歴が、事物を客観的に観察するその作風の背景にある。

1950年代、新しい小説を次々と発表し、注目を集めた。同じ出版社から作品を出した、サロートビュトールら、従来の小説の約束事に挑む作家たちは、「ヌーヴォーロマン(新しい小説)」と総称された。ロブ=グリエは、評論を通じてその理論的な旗手となった。

小説だけでなく、映画にも関わった。アラン・レネ監督の前衛的な映画『去年マリエンバートで』の脚本を手がけ、時間と記憶が交錯するその作風で知られた。のちにはみずからメガホンを取り、『不滅の女』などの実験的な映画を監督している。晩年、アカデミー・フランセーズの会員に選ばれたが、格式ばった入会の儀式を拒んだことでも知られる。2008年に没した。

作風

ロブ=グリエの小説の核心は、物を、ひたすら即物的に描くことにある。従来の小説は、風景や事物を、登場人物の感情の反映として描いてきた。ロブ=グリエは、これを退けた。物は、人間の感情とは無関係に、ただそこに在る。その形、位置、表面を、測量するように正確に、感情を交えずに記述する。

筋と心理も、意図的に排される。物語には、明確な筋や結末がなく、同じ場面が少しずつ形を変えて何度も反復される。登場人物の内面は説明されず、名前すら与えられないこともある。読者は、断片的な描写を組み立てながら、宙づりの状態で読み進めることになる。

その狙いは、人間中心の見方を疑うことにあった。世界を、人間の感情や意味づけの色眼鏡を通してではなく、ありのままに見ようとする。この徹底した客観描写が、小説とは何かという問いそのものを、読者に突きつける。

作品

『嫉妬(La Jalousie)』(1957年)

熱帯の農園を舞台にした小説である。題名は「嫉妬」だが、その感情そのものは一度も語られない。妻とその隣人を見つめる、名前のない語り手の視線を通して、百葉窓や、こぼれた飲み物といった事物が、何度も反復して描かれる。感情を描かずに嫉妬を浮かび上がらせる、ロブ=グリエの手法を示す代表作にあたる。

『消しゴム(Les Gommes)』(1953年)や『覗く人(Le Voyeur)』も、探偵小説の枠を借りながら、その約束事を裏切る初期の代表作である。

評論『新しい小説のために』では、その理論を体系的に説いている。

文学史における立ち位置と影響

ロブ=グリエは、ヌーヴォーロマンの理論的指導者として文学史に名を残す。筋、登場人物、心理描写という、近代小説が当然としてきた要素を根底から疑い、小説の可能性を問い直した点に、その意義がある。

その主張は、小説の歴史における大きな転換点となった。人間の内面や物語よりも、事物の描写と、書くという行為そのものを前面に出すその姿勢は、二十世紀後半の文学に大きな論争を呼び、深い影響を与えた。

小説から映画へと表現を広げた点も、ロブ=グリエの特色である。事物の即物的な描写を、映像という別の手段でも追求した。文学と映画の両面で前衛を貫いた作家として、その位置は独特である。

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