ミシェル・ビュトール
- 原綴
- Michel Butor
- 生没
- 1926–2016
- 出身
- 北フランス・モン=ザン=バルール(ノール県)
- 国
- フランス
- 時代
- 20世紀以降
生涯
1926年、北フランスのモン=ザン=バルール(ノール県)に生まれた。パリで哲学を学び、教師として各国で教えながら小説を書いた。
1950年代、ロブ=グリエやサロートらとともに、従来の小説の約束事に挑む作家の一人として注目された。彼らの試みは「ヌーヴォーロマン(新しい小説)」と総称された。1957年の小説『心変わり』でルノドー賞を受け、名を高めた。
やがてビュトールは、物語の形をとる小説からも離れていった。文章、資料、地図、引用を組み合わせた、分類しがたい実験的な作品を数多く発表した。後半生は、詩や美術批評、旅の記録など、多彩な創作を続けた。2016年に没した。
作風
ビュトールの関心は、小説の形式そのものにある。物語を語ることよりも、小説という器がどう組み立てられているかを、実験の対象とした。時間の流れをどう表すか、視点をどこに置くか、テクストをどう配置するか。そうした形式の問題を、作品ごとに新しく問い直した。
代表作『心変わり』は、その形式の実験をよく示している。この小説は、全編が「あなた(ヴー)」という二人称で語られる。ふつう小説は「私」や「彼」で語られる。二人称で書くことによって、読者は、主人公の位置に否応なく引き入れられる。列車の旅のあいだに主人公の心が変わっていくさまが、この特異な語りでたどられる。
後年は、小説の枠を大きく越えた。文字の配置や、複数のテクストの重ね合わせなど、書物の空間そのものを造形しようとした。文学を、線的に読み進めるものから、空間として体験するものへと変えようとする試みだった。
作品
『心変わり(La Modification)』(1957年)
パリからローマへ向かう列車のなかの一日を描いた小説である。主人公は、ローマにいる愛人のもとへ、妻と別れる決意で向かう。だが旅のあいだに、その決意がしだいに揺らぎ、心が変わっていく。全編が「あなた」という二人称で語られる点に、最大の特徴がある。ヌーヴォーロマンを代表する作品にあたる。
『時間割(L'Emploi du temps)』も、ある都市に滞在する男の錯綜する時間を描いた実験的な小説である。後年の『モビール』などでは、資料の配列そのものを作品にした。
文学史における立ち位置と影響
ビュトールは、ヌーヴォーロマンの代表的な作家の一人として文学史に名を残す。小説を、物語を伝える手段としてではなく、形式そのものが問われる実験の場としてとらえた点に、その意義がある。とりわけ『心変わり』の二人称の語りは、小説の可能性を広げた試みとして記憶されている。
同じヌーヴォーロマンの作家のなかでも、その歩みは独特である。物語の解体からさらに進んで、書物という物そのものの造形へと向かった。小説の枠を越えて、詩・批評・美術へと領域を広げたその活動は、ジャンルの境界そのものを問い直すものだった。
形式への飽くなき探究を貫いたビュトールの仕事は、二十世紀後半の文学が、表現の形式をどこまで実験しうるかを示す一つの極として位置づけられている。