リア王

原題
King Lear
作者
ウィリアム・シェイクスピア
成立
1605頃
イギリス
時代
ルネサンス

概要

1605年から翌年ごろに書かれた五幕の悲劇である。老いた王リアが王国を三人の娘に分割しようとして、末娘コーディーリアの答えを愛情の不足と受け取り、相続から外す。その判断の誤りが、王の失墜と国土の内戦を引き起こす。

この作品には主筋と並んでもう一本の筋がある。グロスター伯が、庶子エドマンドの偽りを信じて嫡子エドガーを追放し、やがて両目を失う。父が子の言葉を読み違えて破滅するという同じ形が二重に置かれ、片方が他方を照らす構成になっている。二つの筋は第三幕の荒野で合流する。

舞台はキリスト教以前のブリテンで、人物は異教の神々に呼びかける。祈りは届かず、正義も報いも訪れない。最後に死ぬのは悪人だけではない。この結末の過酷さは、後世の受容にそのまま影響した。

1605年から1606年ごろの執筆と推定されている。1606年12月26日に宮廷でジェームズ一世の前で上演された記録があり、それ以前の成立は確実である。

材源は複数ある。主筋の原型は、12世紀のジェフリー・オヴ・モンマスが記したブリテンの伝説上の王レイアの話で、ラファエル・ホリンシェッドの年代記を経て伝わった。伝説では最後にコーディーリアが父を王位に戻し、リアは天寿を全うする。1590年代に上演された作者不明の劇『レア王年代記(The True Chronicle History of King Leir)』も同様に、和解と復位で終わる。シェイクスピアは、伝わってきた筋の結末を悲劇に変えている。副筋のグロスター親子は、フィリップ・シドニーの散文物語『アーケイディア(The Countess of Pembroke's Arcadia)』にあるパフラゴニアの盲目の王の挿話から取られている。

本文は二種類ある。1608年の四つ折本と1623年の全集版で、片方だけにある場面や台詞が三百行以上にのぼる。長らく編集者は両方を合成した本文を作ってきたが、20世紀後半以降は、四つ折本を初稿、全集版をシェイクスピア自身による改訂稿と見て、別々の作品として扱う立場が有力になっている。

文学史における評価と影響

上演史そのものが、この作品の性質を示している。1681年、ネイアム・テイトが結末を書き換えた版を作り、コーディーリアは生き延びてエドガーと結婚し、リアは王位に戻る。道化は削除された。この改作が、以後およそ百五十年にわたって舞台を独占した。原作の結末が劇場に戻ったのは19世紀半ばである。サミュエル・ジョンソンは、コーディーリアの死に耐えられず、編集の仕事で読み返すまで最終幕を再読しなかったと書いている。

19世紀のロマン主義は、この作品を舞台には収まらないものとして扱った。コールリッジらは書斎で読むべき作品と見た。舞台上で老王の狂気と荒野の嵐を表現しきれないという判断で、そこには、演劇より詩を上に置く時代の価値観も働いている。

20世紀に入って評価が反転する。神も正義も介入せず、善良な人物が理由もなく死ぬという結末が、時代の感覚に合った。1960年代にポーランドの批評家ヤン・コットは、この作品をベケットゴドーを待ちながらと並べ、意味の不在を舞台化した劇として論じた。ピーター・ブルックの1962年の演出と1971年の映画は、その読みに立っている。

嵐の場面は、演劇史で繰り返し論じられてきた。外の天候と内面の崩壊が同時に進み、どちらが原因ともつかない。荒野では、正気を失った王、狂気を装う貴族、真実だけを言う道化、目を失った老人が並ぶ。地位も視力も理性も剥がされた状態で、人間に何が残るかが問われる。

翻案も多い。黒澤明の映画『乱』は、舞台を戦国日本に移し、三人の娘を三人の息子に変えている。ジェーン・スマイリーの小説『大農場(A Thousand Acres)』は、アイオワの農家を舞台に、娘たちの側から筋を語り直した。

あらすじ

第一幕。老王リアは、統治の重荷を降ろすため王国を三分し、三人の娘に与えると宣言する。分配の前に、誰が最も自分を愛しているかを言わせる。長女ゴネリルと次女リーガンは言葉を尽くして愛を述べ、それぞれ領地を得る。末娘コーディーリアは、娘としての務めのぶんだけ愛していると答え、結婚すれば愛の半分は夫に向かうはずだから、姉たちのようには言えないと述べる。激怒したリアは相続から外し、諫めた忠臣ケント伯も追放する。コーディーリアは持参金なしのままフランス王に望まれ、渡仏する。

並行して、グロスター伯の庶子エドマンドが、兄エドガーが父の命を狙っているという偽の手紙を仕組む。エドガーは追われ、乞食トムに身をやつして逃げる。

リアは百人の騎士を連れ、二人の姉の家に月ごとに滞在する取り決めで暮らし始める。ゴネリルは騎士の数を減らせと要求し、リーガンの家へ移ってもさらに減らされ、最後には一人も要らないと言われる。追放されたケントは変装して従者に紛れ込み、道化とともにリアに付き従う。

嵐の夜、リアは館を飛び出して荒野へ出る。暴風雨に向かって叫び、道化と、乞食に身をやつしたエドガーと出会う。半裸の乞食を見て、人間とはこれだけのものかと言い、自分の衣服を引き裂こうとする。理性が壊れていく。

グロスターはひそかにリアを助けようとしたことをエドマンドに密告され、リーガンとその夫コーンウォール公に捕らえられて、両目をえぐられる。目を潰された状態で放り出され、正体を明かさないエドガーに手を引かれてドーヴァーへ向かう。身を投げようとして、実際には平地で倒れただけであることをエドガーに信じ込ませられ、生き直す。

コーディーリアがフランス軍を率いて上陸する。リアは保護され、正気を取り戻して娘と再会し、許しを乞う。だが戦いはイギリス側の勝利に終わり、二人は捕らえられる。ゴネリルとリーガンはともにエドマンドを求めて争い、ゴネリルが妹を毒殺したのち自ら命を絶つ。エドガーが正体を明かして決闘でエドマンドを倒す。

死に際のエドマンドが、コーディーリアの処刑を取り消そうとするが間に合わない。リアは絞め殺された娘を抱いて現れる。娘の唇に息があるかを確かめようとしながら、そのまま死ぬ。生き残ったエドガーが、この重い時代を担わねばならないと語って幕が下りる。

作者

登場する文学史