西遊記
- 作者
- 呉承恩
- 成立
- 16世紀
- 国
- 中国
- 時代
- 元明清
概要
16世紀後半に成立した長篇小説である。全100回。7世紀の実在の僧玄奘がインドへ経典を求めて旅した史実を出発点に、神仏と妖怪の入り乱れる物語として作られている。
構成は三つに分かれる。第1回から第7回は孫悟空の出生と、天界で暴れて釈迦に封じられるまで。第8回から第12回は、旅の背景と玄奘(三蔵法師)の来歴。第13回以降が旅の本体で、八十一の難と呼ばれる災難を次々に切り抜けていく。
旅の部分は、一つの妖怪との遭遇を数回でまとめる形が繰り返される。妖怪が三蔵を捕らえ、悟空が戦い、手に負えないときは天界や仏の助けを借りて解決する。同じ形が何度も反復される構造で、通読しなくても任意の挿話から読めるようになっている。
笑いの要素が強い。天界の役人は融通が利かず、仏も駆け引きをする。豚の妖怪だった猪八戒は食欲と怠惰と色欲のかたまりとして書かれ、三蔵はしばしば臆病で、弟子を誤解して破門する。信仰の物語でありながら、聖なるものを笑う視線が全篇にある。
玄奘(602-664)は実在の僧で、国禁を犯して長安を発ち、十七年後にインドから経典を持ち帰った。その旅の記録『大唐西域記』は、弟子がまとめた地理と風俗の書で、後にインド史研究の史料としても用いられている。ここには妖怪も猿も出てこない。
物語化は宋代に始まる。『大唐三蔵取経詩話』という語り物の台本には、猴行者という猿の従者がすでに登場する。元代には雑劇(演劇)の演目にもなり、猪八戒や沙悟浄にあたる人物も加わっていった。数百年かけて講釈と演劇の中で育ったものが、16世紀に長篇としてまとめられた。
作者を呉承恩とする説は、清代に地方志の記述から唱えられたもので、決定的な証拠はない。呉承恩は明代の文人で、科挙に長く合格できず、下級の官を務めた人物である。作者不明とする研究者も多い。
現存最古の刊本は1592年の金陵世徳堂本で、作者名は記されていない。
悟空の造形の由来については、インドの叙事詩『ラーマーヤナ』の猿神ハヌマーンの影響を見る説と、中国在来の猿の伝承から出たとする説がある。決着していない。
文学史における評価と影響
四大奇書の一つに数えられる。三国志演義が歴史を、水滸伝が反乱を扱うのに対し、この作品は神仏と妖怪の世界を扱い、しかも一貫して笑いを伴う。
読み方は古くから分かれてきた。仏教・道教の寓意として読む立場は、旅を修行の過程と見る。心猿意馬という語があるように、悟空は制御しがたい心の比喩とされ、頭の輪はそれを律する戒律にあたるという解釈である。一方、20世紀初頭の胡適や魯迅は、この寓意的な読みを退け、遊戯の書として書かれたものだと論じた。魯迅の『中国小説史略』は、この作品を「遊戯の作」と位置づけている。
天界の官僚機構を、地上の役所と同じ仕組みとして描いた点は、この作品の風刺の核にあたる。神々は台帳を管理し、決裁を回し、責任を回避する。悟空が怒るのは、その硬直に対してである。
日本には早くから伝わり、江戸期に翻案が作られた。近代では映像・漫画・アニメの原作として繰り返し用いられ、孫悟空の造形はさまざまな形で派生している。中国では1986年のテレビドラマ版が国民的な人気を得て、以後の受容の基準になった。
四大奇書のうち、日本での親しまれ方は三国志演義と並んで高い。全100回の完訳もあり、抄訳や児童向けの版も多い。
あらすじ
東勝神洲の花果山で、石から一匹の猿が生まれる。猿たちの王となり、不老不死を求めて修行に出て、須菩提祖師から孫悟空の名と、七十二の変化の術、一飛びで十万八千里を行く筋斗雲を授かる。竜宮から如意棒を奪い、地獄で生死の帳簿から自分の名を消す。
天界は悟空を懐柔しようと官職を与えるが、それが馬の世話係だと知って怒り、暴れる。次に斉天大聖の称号を与えられ、蟠桃園の管理を任されるが、不老の桃を食い、仙丹を飲み、天界の宴を台無しにする。天兵天将を退けたのち、釈迦如来が現れる。悟空は、自分の手のひらから飛び出せたら天帝の座を譲ろうという釈迦の言葉に応じ、世界の果てと思った五本の柱に印を残して戻るが、それは釈迦の指だった。五行山の下に封じられ、五百年を過ごす。
時代は下って唐。観音菩薩が、東土の衆生を救うには天竺の経典が要ると説き、取経の役を担う僧として玄奘が選ばれる。太宗皇帝から三蔵の号を受け、旅立つ。
五行山を通りかかった三蔵は、悟空を解放して弟子にする。悟空が言うことを聞かないため、観音は三蔵に緊箍児という輪を渡す。悟空の頭にはめられ、呪文を唱えると締めつけられる。続いて、天の水軍の元帥だったが酔って罪を得た猪八戒、天界の官だった沙悟浄が弟子に加わる。竜王の子は白馬となって三蔵を乗せる。
以後、旅は妖怪との遭遇の連続になる。三蔵の肉を食えば不老不死になるという言い伝えがあり、妖怪は皆それを狙う。白骨の妖怪は三度姿を変えて近づき、悟空はそのたびに見破って打ち殺すが、三蔵は人を殺したと誤解して悟空を破門する。金角・銀角、紅孩児、牛魔王と羅刹女、通天河の金魚。芭蕉扇を借りて火焔山の火を消す一連の挿話はとくによく知られる。女性ばかりの女人国、蜘蛛の精、獅子の妖怪。多くの場合、妖怪は天界の誰かの乗り物や従者が逃げ出したもので、最後にその主が現れて引き取っていく。
十四年をかけて天竺の霊山に着く。経典を渡す仏の弟子が土産を要求し、断ると白紙の経を渡される。抗議して交換してもらい、経典を得る。八十一の難に一つ足りないと気づいた観音が、帰路にもう一難を加える。長安へ経典を持ち帰り、一行はそれぞれ位を授かる。悟空は闘戦勝仏となり、頭の輪は自然に消えている。