ペルシア人の手紙

原題
Lettres persanes
作者
モンテスキュー
成立
1721
フランス
時代
18世紀

概要

1721年に匿名で刊行された書簡体小説である。刊行地はオランダのアムステルダムで、検閲を避けるためにフランス国外から出された。手紙は全百六十通で、後の版で増補されている。

主要な書き手は二人のペルシア人である。ユズベクは貴族で、故郷に妻たちを残してきている。リカは若く、身軽で、目にしたものを面白がる。二人は1711年にイスファハーンを出て、翌々年パリに着き、以後八年ほど滞在する。

手紙の宛先は友人や故郷の家である。フランスの制度、宗教、社交、流行が、それを知らない者の目で報告される。読者にとって当たり前のことが、外から見ると奇妙に見える、という仕組みになっている。

同時に、ユズベクが故郷に残した後宮からの手紙が並行して届く。この線は最後に破局を迎える。

モンテスキューは1689年、ボルドー近郊の貴族の家に生まれた。刊行当時、ボルドー高等法院の法官を務めており、三十二歳だった。

刊行は匿名である。書かれている内容——国王への皮肉、教皇への揶揄、宗教の相対化——は、実名では出せなかった。それでも著者が誰かはまもなく知られ、モンテスキューはパリの社交界で迎えられるようになる。

同じ時期、フランスはルイ十四世の死(1715年)の直後にあたる。長い治世が終わり、摂政のもとで規制が緩んだ時期で、ジョン・ローの財政政策による投機の熱狂とその崩壊が起きている。作中にもこの出来事への言及がある。

ペルシアを舞台に選んだ背景には、当時の東方への関心がある。1704年から『千一夜物語』のフランス語訳が出て評判になっており、東方の宮廷と後宮の像が広まっていた。実際にペルシアの使節がパリを訪れてもいる。

モンテスキューはこの後、ヨーロッパ各国を旅し、1734年にローマ人盛衰原因論、1748年に法の精神を刊行する。

文学史における評価と影響

異邦人の目を借りて自国を見せる方法が、この作品によって型として定着した。読者が当然と思っているものを、それを知らない者に説明させる。説明しようとすると、根拠のなさが露わになる。

この方法は18世紀に繰り返し使われた。ゴールドスミスの『世界市民』、ヴォルテールカンディードや『アンガンニュ』などがある。日本でも同じ仕組みの作品が書かれている。

後宮の線の位置づけは、20世紀後半から議論の対象になった。従来は諷刺の枠組みや異国趣味として扱われてきたが、この部分を作品の主題として読む見方が出ている。ユズベクはパリで自由と平等を論じながら、故郷では妻たちを監禁し、宦官に監視させている。この矛盾を作者が意識していたかどうかが争点にあたる。

ロクサーヌの最後の手紙も同じ文脈で読まれる。従順に見えていたものが偽装だった、という結末は、外から見ることの限界を作品自身が示す形になっている。

啓蒙思想の先駆として位置づけられるが、体系的な主張はしていない。手紙ごとに立場が違い、ユズベク自身も一貫していない。この不統一を欠点と見るか、方法と見るかで評価が分かれてきた。

内容

外から見たフランスが手紙の大半を占める。

リカは、パリの家が上に積み上がっており、通りを歩く人がぶつかりながら急いでいることを報告する。国王ルイ十四世については、金鉱を持たないのに戦争を続けられるのは、臣下の虚栄を利用して名誉を売っているからだと書く。教皇については、三位一体のような理解できないことを信じさせる力を持った魔術師だと説明する。

リカがペルシアの服を脱いでフランス風の服を着ると、誰も注目しなくなる。以前は行く先々で人が集まり、「この人はペルシア人だ」と言われた。服を替えた途端、自分は何者でもなくなる。リカは、人の評価が服装で決まる状況を書き留める。

社交界の描写も多い。話す内容ではなく話し方で人物が評価されること、女性が政治に影響を及ぼしていること、財産が投機で動くこと。

制度への議論も挟まる。ユズベクは友人に宛てて、法、宗教、人口、専制について長い考察を書く。ここには後の法の精神につながる論点が現れる。専制のもとでは人口が減る、という議論もその一つにあたる。

トログロディット人の寓話が第十一通から第十四通に置かれる。互いに欺き合って滅びた民族と、徳によって結ばれて栄えた民族の話で、社会が何によって成り立つかを扱う。

後宮の線が並行して進む。ユズベクは、故郷に残した妻たちを宦官に管理させている。手紙のやりとりで、妻たちの不満と宦官の報告が届く。ユズベクは遠くから命令を出し、締めつけを強める。

最後の数通で破局が来る。妻の一人ロクサーヌが、他の男を引き入れていたことが発覚する。処罰の指示が出るが間に合わない。ロクサーヌは毒を飲み、死ぬ前にユズベクへ最後の手紙を書く。あなたは私が従順だと思っていたが、それはあなたを欺くためだった。私は自分の法に従って生きた——という趣旨の内容で、作品はこの手紙で終わる。

作者

登場する文学史