法の精神

原題
De l'esprit des lois
作者
モンテスキュー
成立
1748
フランス
時代
18世紀

概要

1748年に匿名で刊行された政治論である。全三十一編、日本語訳で二千ページを超える。モンテスキューは執筆に二十年近くを費やした。

議論の出発点は、法をどう捉えるかにある。ある国の法が良いか悪いかを、理想の物差しで測るのではなく、その国の条件——気候、土地、人口、宗教、商業、習俗——との関係で捉える。同じ法が別の国では機能しない。モンテスキューはこの結びつきを「法の精神」と呼んだ。

政体は三つに分類される。共和政(人民または一部が主権を持つ)、君主政(一人が定まった法に従って統治する)、専制(一人が法によらず恣意で統治する)。それぞれを支える原理として、共和政には徳、君主政には名誉、専制には恐怖が対応するとされる。

第十一編に置かれたイギリスの統治の分析が、後に三権分立論として広く知られるようになった。

モンテスキューは1689年、ボルドー近郊の貴族の家に生まれた。ボルドー高等法院の法官を務め、1726年にその職を売却して著述に専念した。当時の官職は売買の対象で、これは異例のことではない。

1728年から1731年にかけてヨーロッパを回った。オーストリア、ハンガリー、イタリア、ドイツ、オランダを経て、イギリスに一年半滞在している。各国の制度を実際に見たこの経験が、後の著作の方法を決めた。

先立つ著作として、1721年のペルシア人の手紙と1734年のローマ人盛衰原因論がある。後者は一つの国家について試みた分析で、この主著はそれをあらゆる国家に広げたものにあたる。

刊行は匿名で、検閲を避けるためジュネーヴから出された。それでも1751年にローマ教皇庁の禁書目録に載せられている。モンテスキューは1750年に『法の精神の弁護』を書いて反論した。1755年に死去している。

文学史における評価と影響

三権分立の議論が最もよく知られる。ただしモンテスキュー自身は「三権分立」という語を使っておらず、三つの権力を厳密に分離せよとも書いていない。書かれているのは、同じ手に集めるなという趣旨である。この議論はアメリカ合衆国憲法の起草者たちに読まれ、『ザ・フェデラリスト』で繰り返し引用された。フランス人権宣言の第十六条にも、権力の分立がなければ憲法を持たないという条文が入っている。

方法の面では、法を理想からではなく条件から説明した点が新しい。政治を、理念ではなく比較と観察の対象にした。この姿勢は後の社会科学の出発点の一つに数えられる。

気候による説明は、19世紀以降に強く批判された。暑い地域の住民は服従的だという議論は、実証的な根拠を欠くうえ、植民地支配を正当化する論拠に転用されうる。モンテスキュー自身は専制を批判する文脈でこれを書いたが、結果として地域による人間の類型化に道を開いた面がある。

奴隷制の章の書き方も議論を呼び続けている。皮肉として読めば強い否定だが、皮肉と読まずに引用すれば擁護になる。18世紀にも19世紀にも、そのように使われた例がある。

内容

法とは何か(第一編)。あらゆる存在には、そのものの性質から生じる関係がある。人間の法もその一つで、理性と条件の関係から生まれる。したがって、ある民族の法が他の民族にそのまま当てはまることはまずない。

政体の分類(第二〜八編)。三つの政体それぞれについて、その性質と、それを動かす原理が論じられる。原理が失われれば政体は崩れる。共和政で市民が公共への関心を失えば、専制に近づく。

自由と権力(第十一〜十二編)がこの著作で最も読まれる部分にあたる。

モンテスキューはまず、自由とは何でもできることではなく、法が許すことを行える状態だと定義する。そのうえで、権力を持つ者は必ずそれを濫用する、という前提を置く。したがって、濫用を防ぐには権力に権力を対抗させるほかない。

そこで統治の作用を三つに分ける。立法(法を作る)、執行(法を実施する)、裁判(争いを裁き、罪を罰する)。この三つが同じ人物や同じ団体の手にあると自由はない。立法と執行が一つなら、圧政的な法を作って自分で執行できる。裁判が立法と一つなら、裁判官が法を作れる。裁判が執行と一つなら、裁判官が力ずくで押し通せる。

モデルとして挙げられるのがイギリスである。国王が執行を担い、議会が立法を担い、裁判は独立している。ただしモンテスキューが記述したイギリスの体制は、当時の実態とは隔たりがあり、理念化されたものだったと現在では指摘されている。

気候と土地(第十四〜十八編)。ここでモンテスキューは、寒冷な気候は活力と自由への志向を生み、暑い気候は怠惰と服従を生む、と論じる。土地の肥沃さ、島か大陸か、といった条件も政体に影響するとされる。この部分は後に強い批判を受けた。

習俗と法の区別(第十九編)。法で変えるべきことと、習俗で扱うべきことは違う。習俗を法で変えようとすれば専制になる。

商業・貨幣・人口・宗教(第二十〜二十六編)。商業は諸国民を結びつけ、風俗を穏やかにする働きを持つとされる。

奴隷制(第十五編)。モンテスキューは奴隷制を否定する。ただしその論じ方が独特で、黒人奴隷制を擁護する側の論拠を並べ、そのばかばかしさを読者に悟らせる書き方をとる。額面通り読むと擁護に見えるため、当時から誤読があった。

フランスの法の歴史(第二十八・三十・三十一編)。フランク族以来の法制史が扱われる。

作者

登場する文学史