アレグザンダー・ポープ
- 原綴
- Alexander Pope
- 生没
- 1688–1744
- 出身
- ロンドン
- 国
- イギリス
- 時代
- 17-18世紀
生涯
1688年、ロンドンのカトリックの商家に生まれた。当時、カトリック教徒は、大学に学ぶことも、公職に就くことも許されなかった。そのためポープは、独学で古典と文学を身につけた。加えて、幼くして重い病を患い、生涯、身体に障害を抱え、背が曲がったままだった。
こうした不利な条件のなか、ポープは、詩の才能ひとつで身を立てた。二十代で発表した『批評論』や『髪盗人』が高く評価され、若くして名声を得た。とりわけ古代ギリシャの叙事詩人ホメロスの翻訳が、経済的な成功をもたらした。パトロン(後援者)に頼らず、自らの筆の収入だけで自立した、最初期の職業詩人の一人である。
その鋭い諷刺は、多くの敵をつくった。ポープは、凡庸な文人たちを、痛烈に風刺し、また、みずからを攻撃する者には、詩で容赦なく反撃した。文壇の頂点にありながら、たえず論争のただなかにあった。1744年に没した。
作風
ポープの詩は、均整と、機知の極致である。二行ずつ韻を踏む対句(ヒロイック・カプレット)を、完璧なまでに磨き上げた。ひとつの対句のなかに、意味を、簡潔に、そして印象深く収める。その研ぎ澄まされた一行は、しばしばことわざのように記憶された。多くの名句が、今も英語の日常に生きている。
諷刺に、とりわけすぐれた。人間の愚かさや、社会の虚栄を、機知に富む笑いによって、鋭く暴き出す。代表作『髪盗人』は、社交界で起きた、髪の毛一房をめぐるささいな諍いを、まるで壮大な叙事詩であるかのように、大げさに描いてみせた。この、ささいな事柄を大仰に扱う手法(擬似英雄詩)によって、上流社会の虚栄を、優雅に、しかし辛辣に諷刺した。
理性と、秩序を重んじる、新古典主義の精神が、その根にある。詩は、感情のほとばしりではなく、機知と技巧によって、明晰に構築されるべきものだった。均整のとれた形式のなかに、鋭い知性を盛り込むこの理想を、ポープは最も完璧に体現した。
作品
『髪盗人(The Rape of the Lock)』(1712年)
社交界で、ある男が、女性の髪を一房切り取ったという、ささいな出来事を題材にした詩である。それを、まるで神々が介入する壮大な叙事詩であるかのように、大げさに描いた。この擬似英雄詩によって、上流社会の虚栄を、優雅に諷刺した。ポープの機知を最もよく示す代表作にあたる。
『批評論(An Essay on Criticism)』
詩の批評のあり方を、韻文で説いた作品である。「浅学は危険なもの」など、数多くの名句を含み、若きポープの名を高めた。哲学詩『人間論』も、その思想を示す代表作である。
文学史における立ち位置と影響
ポープは、十八世紀イギリスの新古典主義の詩を、その頂点に導いた詩人として文学史に名を残す。理性、均整、機知を重んじるこの時代の詩の理想を、ポープほど完璧に実現した者はいない。その時代は、しばしば「ポープの時代」とも呼ばれる。
対句を駆使した、その簡潔で印象的な詩句は、無数の名句を生んだ。シェイクスピアに次いで、英語で最も多く引用される詩人とも言われる。その言葉は、詩の枠を越えて、英語そのものの財産となっている。
パトロンに頼らず、詩の収入だけで自立した点でも、その存在は画期的だった。身体の障害と、宗教的な差別という不利をはねのけ、才能ひとつで文壇の頂点に立ったその生涯は、職業詩人のあり方の、一つの原型を示している。