アンディアナ

原題
Indiana
作者
ジョルジュ・サンド
成立
1832
フランス
時代
19世紀

概要

1832年5月に刊行された長篇小説である。「サンド」という筆名が初めて使われた作品にあたる。前年に共作で出した小説では、共作者の名を分け合った別の筆名を用いていた。

主人公アンディアナは、インド洋のブルボン島——現在のレユニオン、当時のフランス領——で育ち、十九歳でフランスに来て、退役軍人デルマール大佐と結婚した。夫は二十歳以上年上で、粗暴であり、妻を所有物として扱う。

そこに近隣の貴族の青年レーモンが現れる。アンディアナはこの男に、いまの生活から出る道を見る。だがレーモンは、危険のない恋しか望んでいない。

もう一人、従兄のラルフがいる。無口で、周囲からは鈍い男と思われているが、幼いころからアンディアナを想い続けている。

刊行当時、結婚制度への攻撃として受け取られ、議論を呼んだ。

サンドは本名をオーロール・デュパンといい、1804年パリに生まれた。十八歳でデュドヴァン男爵と結婚したが、この結婚は不幸だった。二人の子をもうけた後、1831年に夫のもとを離れてパリに出る。生活のため文筆を選んだ。

当時、女性が独立して生きる手段は限られていた。サンドは男装し、男性名の筆名を用いた。男装には実際的な理由もある。当時の劇場の平土間は女性の入場が制限されており、男の服なら安く観劇できた。

この作品はその翌年に書かれた。作中の状況の一部は自分の結婚生活から採られている。

刊行されると成功を収めた。同時に、結婚制度への攻撃として非難も受けた。サンドは後の版の序文で弁明している。個人を告発したのではなく、法と慣習が女性に課している不平等を問題にしたのだ、と。

当時のフランス民法では、妻は夫に従う義務を負い、財産の管理権も居住地の決定権も夫にあった。離婚は1816年に廃止されており、この作品の刊行時には制度として存在しない。1884年まで復活しない。

文学史における評価と影響

結婚制度における女性の従属を正面から扱った点が、この作品の中心にある。アンディアナの苦しみは個人的な不幸ではなく、法と慣習の産物として書かれている。19世紀の女性の状況をめぐる文学の早い例にあたる。

三人の男の配置も構造をなす。粗暴に支配する夫、優雅だが身勝手な恋人、無口で目立たないが誠実な従兄。アンディアナは最も華やかな男に幻想を抱き、最も地味な男の想いに最後まで気づかない。

結末については批判が長く続いている。二人は社会の外——島の渓谷の奥——に逃れることでしか幸福を得られない。社会の内部でこの関係は成り立たない。逃避だという指摘がある一方、当時の制度のもとで他の解決がありえたかという反論もある。

二人が奴隷を買い取って解放するという細部も、植民地の現実への言及にあたる。フランスの植民地で奴隷制が廃止されるのは1848年で、この作品の十六年後である。

サンドはこの後、レリアコンシュエロを経て、1840年代に魔の沼愛の妖精といった田園小説へ向かう。作風は変わるが、社会の不平等への関心は一貫している。

あらすじ

フランスの片田舎の館。デルマール大佐はナポレオン時代の退役軍人で、いまは工場を経営している。疑い深く、妻を支配することを当然と考えている。妻アンディアナは若く、生気を失いつつある。

同じ館に、アンディアナの従兄ラルフが住んでいる。イギリス人で、無口で、感情を表に出さない。周囲は冷淡で退屈な男とみなしている。

ある夜、庭に侵入者が現れる。近隣の貴族の青年レーモン・ド・ラミエールである。目当ては館の女中ノウンで、アンディアナの乳姉妹にあたるクレオールの娘だった。二人はすでに関係を持っている。

だがレーモンはノウンに飽きており、アンディアナに心を移している。ノウンは身ごもっていた。捨てられたと知ったノウンは川に身を投げて死ぬ。

レーモンは一時動揺するが、まもなく立ち直り、アンディアナへの求愛を続ける。

アンディアナはレーモンを受け入れる。抑えつけられた生活のなかで、この男だけが外への出口に見えた。すべてを捨てて行くつもりでいる。

だがレーモンはそれを望んでいなかった。求めていたのは危険のない恋であって、人生を賭けた関係ではない。アンディアナが本気で夫を捨てて来ようとすると、レーモンはうろたえ、逃げる。そして体面と打算から、資産のある別の女性と結婚する。

一方、夫デルマールは事業に失敗し、ブルボン島へ移住することを決める。アンディアナは従い、ラルフも同行する。

島での生活はさらに過酷になる。夫の支配は強まり、アンディアナは監禁に近い状態に置かれる。それでもレーモンへの幻想を捨てきれず、ついに島を脱け出してフランスに渡る。

たどり着いた先で見たのは、他の女と結婚して平然と暮らしているレーモンの姿だった。

アンディアナは島へ戻る。夫はすでに死んでいる。何も残っていない。アンディアナとラルフは死ぬことを決め、島の滝へ向かう。

その途上で、ラルフは生涯一度も口にしなかった自分の想いを語る。幼いころからずっとアンディアナを愛していたこと、それを隠し通してきたこと。アンディアナはここで初めて、本当の愛がどこにあったかを知る。

結末は二人の死ではない。数年後、旅人が島を訪れ、深い渓谷の奥で静かに暮らしている二人に出会う。二人は社会から遠く離れた場所で共に生きていた。わずかな収入で奴隷を買い取っては解放している。

作者

登場する文学史