愛の妖精
- 原題
- La Petite Fadette
- 作者
- ジョルジュ・サンド
- 成立
- 1849
- 国
- フランス
- 時代
- 19世紀
概要
1849年に新聞『クレディ』に連載され、同年に単行本が出た長篇小説である。舞台は前作までと同じくベリー地方——パリの南、フランスのほぼ中央にある農業地帯にあたる。
物語は二つの線で進む。一つは双子の兄弟の話である。裕福な農家バルボー家に生まれたシルヴィネとランドリーは、離れて暮らせないほど強く結びついている。もう一つはファデットの話で、この娘は貧しく、身なりが悪く、祖母が薬草を扱うため村で魔女扱いされている。
ランドリーがファデットの本当の姿を知り、二人が結ばれるまでが筋になる。そこに、兄シルヴィネが弟への執着から自立していく過程が重なる。
魔の沼と『捨て子フランソワ』に続く、サンドの田園小説の三作目にあたる。
1848年2月、パリで革命が起き、王政が倒れて共和政が成立した。サンドはこれに深く関わり、臨時政府の広報の文書を書いている。だが六月、パリの労働者の蜂起が軍によって鎮圧され、数千人が死んだ。サンドは政治から退き、ノアンの領地に引きこもる。
この作品はその直後に書かれた。連載は1848年12月に始まっている。
サンドは序文で、この時期に農村の話を書く理由を説明した。血を見た後に自分を支えたのは、故郷の風景と、そこに生きる人々の姿だったという趣旨である。政治の挫折から田園小説へ向かう流れは、魔の沼の時期から続いている。
文学史における評価と影響
主題は偏見の扱いにある。ファデットは貧しく、身なりが悪く、祖母が魔女と噂される。村人はその外見と噂だけで判断し、排除する。ランドリーが初めてその言葉を聞いたところから状況が変わる。
ファデット自身の側の描き方も見落とされない。ファデットは、どうせ好かれないのだから努力しても無駄だと考えて、わざと悪い態度をとってきた。排除された側が、その扱いに合わせて自分を作っていく過程が書かれている。
双子の関係も副主題にあたる。シルヴィネの執着は愛情であると同時に依存で、成長とはそこから離れることでもある。この心理をサンドは、当時の言葉で丁寧に追っている。
田園小説の形式としては、方言と語り口の扱いが試みられた。ベリー地方の農民の言葉づかいを写そうとし、村の語り手が囲炉裏端で聞かせるような調子で書かれている。ただし全体を方言で通すことはせず、地の文は標準的なフランス語になっている。サンド自身、この折衷に悩んだことを書き残している。
日本では明治期から訳され、訳題「愛の妖精」で定着した。原題は「小さなファデット」で、妖精にあたる語は含まれていない。児童向けの書き直しも多い。
あらすじ
バルボー家に双子の男の子が生まれる。シルヴィネとランドリーは瓜二つで、幼いころから片時も離れない。
家の事情から、二人を別々に奉公に出すことになる。ランドリーは受け入れて隣村の農家へ行く。シルヴィネは耐えられず、家出をして寝込む。
ある日、シルヴィネが再び姿を消す。探し回るランドリーの前にファデットが現れる。村では「こおろぎのファデット」と呼ばれ、身なりが汚く口が悪い娘として通っている。祖母は薬草を扱い、魔女と噂されている。弟のジャネは足が悪く、「こおろぎ」と呼ばれている。
ファデットは取引を持ちかける。兄の居場所を教える代わりに、いつか一つ頼みを聞くこと。ランドリーは承知する。教えられた場所にシルヴィネはいた。
しばらく後、村祭りの日にファデットが約束の履行を求める。自分と七回踊れ、という。ランドリーは困る。みすぼらしいファデットと踊れば笑いものになる。それでも約束を守って踊る。村人は嘲笑い、ファデットは辱めを受ける。
祭りの後、ランドリーは泣いているファデットを見つける。そこで初めてファデットの話を聞く。母は家を捨てて出ていった。祖母は貧しく、村で忌まれている。どうせ誰にも好かれないのだから、身なりを整えても仕方がない。そう考えて生きてきた。
ランドリーはその言葉に打たれる。この日を境にファデットは変わる。身なりを整え、言葉を慎み、本来の聡明さと優しさを見せるようになる。二人は互いを想うようになる。
だがランドリーの父は反対する。魔女の孫で貧しい娘との結婚は認められない。シルヴィネも、弟が他人を愛することに耐えられず苦しむ。
ファデットは村を出て、町へ奉公に行く。
やがて祖母が死ぬ。そこで明らかになる。祖母は薬草の知識で長年蓄えを作っており、ファデットは相当な財産の持ち主だった。町での奉公でも、その人柄を高く評価されていた。
村に戻ったファデットは、変わった姿と財産によって村人の態度を覆す。ランドリーの父も結婚を認める。
残る問題はシルヴィネである。弟への執着が癒えない。ファデットは祖母から受け継いだ知識と、その気質を見抜く力によってシルヴィネを立ち直らせる。シルヴィネは自立を決め、兵士として村を出る。
ランドリーとファデットは結ばれる。