ロビンソン・クルーソー
- 原題
- Robinson Crusoe
- 作者
- ダニエル・デフォー
- 成立
- 1719
- 国
- イギリス
- 時代
- 17-18世紀
概要
一人称の回想録の形をとる小説である。クルーソー自身が自分の半生を語る。日付が入り、収穫の量や作業の日数が数字で記され、読んだ感じは日記か記録に近い。
物語の中心は、無人島での自給自足の生活にある。難破船から道具や食料を運び出し、洞窟を囲って住居を作り、大麦を育て、山羊を飼い、粘土をこねて器を焼く。何もない島で、一人の人間がどうやって文明を作り直すか。 その手順と失敗が延々と書かれる。
面白いのは、この地味さこそが当時の新しさだったという点にある。それまでの物語は、怪物や恋や王侯を扱っていた。この本は、器の焼き方を三度失敗した話を数ページかけて書く。事実に即して細部を積み上げるという書き方が、ここから始まる。
モデルとされるのは、アレクサンダー・セルカークというスコットランド人の船乗りである。船長との争いから南米沖の無人島に自分の意志で降ろされ、四年余りを一人で生き延び、1709年に救出された。その体験は当時広く知られていた。
刊行にあたって、この本はフィクションではなく実話として世に出された。表紙にはクルーソー自身が書いた回想録である、と記されている。当時、作り話は道徳的に低いものと見なされていた。事実を装うことで、この本はより真実味を持って受け入れられた。
デフォーは商人、ジャーナリスト、政治的な密偵と、波乱に富んだ経歴を持つ多作な書き手だった。この小説を書いたのは六十歳近くになってからである。
文学史における評価と影響
イギリス小説の起源に置かれる作品にあたる。バニヤンの天路歴程のような寓意物語と違い、この作品は具体的で現実的な一人の個人の経験を描く。その手法が後の写実的な小説の出発点になった。
主題としては個人の自立が中心にある。何もない島で独力で生活を築き上げる姿は、近代の自立した個人の理想を体現している。同時に、勤勉と合理的な計画によって富を築くその姿勢は、当時勃興しつつあった中産階級の価値観と深く結びついている。哲学者や経済学者は、経済的な人間の原型としてしばしばクルーソーを引き合いに出してきた。
一方で、この作品は植民地主義の観点から批判的に読まれてもきた。クルーソーは島を自分の「領地」とみなして支配する。原住民フライデーを対等の友ではなく従僕として扱い、自分の言語と宗教を教え込む。ヨーロッパ人による非ヨーロッパ世界の支配という構図が、この関係に鮮明に現れている。作品の価値を認めることと、この構図を批判することは両立する、という前提で読まれるのが現在の標準にあたる。
無人島に漂流した人間の物語という型は「ロビンソナード」と呼ばれ、一つのジャンルを形成した。以後、数多くの漂流物語が書かれている。ゴールディングの蠅の王は、この型を暗い方向へ反転させた作品にあたる。
あらすじ
ロビンソン・クルーソーは、堅実な暮らしを望む父の反対を振り切って船乗りになる。奴隷商人として財を成しかけるが、乗った船が難破する。クルーソーだけが生き残り、無人島に流れ着く。
一人取り残されたクルーソーは絶望する。だが生き延びるために動き始める。まず座礁した難破船へ何度も往復し、使えるものをすべて運び出す。道具、武器、食料、そして種子。これらがその後の生活の基礎になる。
そして島での生活を少しずつ築き上げる。洞窟を囲って砦のような住居を作る。持ち出した種子から大麦と米を育てる。野生の山羊を捕らえて家畜にする。粘土をこねて器を焼く。その試行錯誤が詳細に語られる。 難破船から救い出した聖書を読み、次第に信仰に目覚めていく。
孤独な生活は長く続く。そんなある日、クルーソーは砂浜に人間の足跡を発見する。恐怖に襲われる。やがて島に、近隣の島から食人の風習を持つ原住民が時折上陸することを知る。捕虜を連れてきて殺して食べるのである。
ある日、捕虜の一人が殺されようとする場から逃げ出す。クルーソーはこの男を救う。救われた男はクルーソーの従僕となる。 助けた日が金曜日だったことから、クルーソーはこの男を「フライデー」と名づける。そして英語とキリスト教を教える。長い孤独の後、初めて得た人間の仲間である。
やがて島の近くにイギリスの船が現れる。その船では乗組員による反乱が起きていた。クルーソーは船長を助け、反乱を鎮圧する。その船に乗って、二十八年ぶりに故郷イングランドへ帰る。 島を離れる際、反乱者の一部を島に残していく。帰国したクルーソーは、かつての農園の収益によって裕福になっていた。