ウィリアム・ゴールディング
- 原綴
- William Golding
- 生没
- 1911–1993
- 出身
- コーンウォール州
- 国
- イギリス
- 時代
- 20世紀以降
生涯
1911年、イングランド南西部コーンウォール州に生まれた。父は、科学と理性を信じる教師だった。オックスフォード大学で学び、みずからも教師となった。
第二次大戦に、海軍士官として従軍した。この戦争で、ゴールディングは、人間が組織的に行う暴力と破壊を、まのあたりにした。文明人であるはずの人間が、いかに残酷になりうるか。この戦争の体験が、人間の内なる悪という、生涯の主題を決定づけた。
戦後、教師をしながら小説を書いた。1954年、最初の小説『蠅の王』が、当初は評価されなかったものの、しだいに大きな反響を呼んだ。この作品によって、作家としての地位を築いた。1983年、ノーベル文学賞を受けた。1993年に没した。
作風
ゴールディングの文学の核心は、人間の内側にひそむ、野蛮と悪への、鋭い問いにある。人間は、本来、善良で理性的な存在なのか。それとも、その文明のうわべの下に、暴力と残酷さが潜んでいるのか。ゴールディングは、後者の可能性を、容赦なく見つめた。文明とは、この内なる悪を、かろうじて覆い隠している、薄い皮膜にすぎないのではないか、と。
その物語は、しばしば寓話の形をとる。現実の細かな描写よりも、人間の本質を浮かび上がらせる、象徴的な状況が設定される。代表作『蠅の王』では、無人島に取り残された少年たちが、文明のくびきを離れ、しだいに野蛮へと堕ちていく。この極限の状況が、人間性についての、一つの寓話となっている。
その筆致は、力強く、時に暗い。人間の暗部を描きながらも、単なる悲観にとどまらない。悪を直視することで、かえって、善や、人間の尊厳の意味を問おうとする。深い倫理的な関心が、その文学を貫いている。
作品
『蠅の王(Lord of the Flies)』(1954年)
飛行機事故で無人島に取り残された少年たちが、大人のいない世界で、自分たちの社会を作ろうとする物語である。はじめは秩序を保とうとするが、しだいに対立が生まれ、恐怖と暴力が支配し、少年たちは野蛮へと堕ちていく。文明の下にひそむ人間の悪を描いた、二十世紀を代表する寓話小説にあたる。
ネアンデルタール人の滅びを描いた『後継者たち』や、中世の大聖堂の建設をめぐる『尖塔』も、人間の本質を問うた作品として知られる。
文学史における立ち位置と影響
ゴールディングは、人間の内なる悪を寓話的に描いた作家として文学史に名を残す。第二次大戦という、人類が組織的な暴力の極致を経験した後の時代に、人間性への根源的な問いを投げかけた点に、その意義がある。
とりわけ『蠅の王』は、人間は本来善良だという、啓蒙以来の楽観的な人間観に、鋭く異議を唱えた。文明とは、内なる野蛮を覆う薄皮にすぎないという、その暗い洞察は、戦争の世紀を生きた人々に、強い衝撃を与えた。教科書にも広く採られ、世代を越えて読み継がれている。
人間の暗部を直視しながら、なお倫理的な問いを手放さないその姿勢は、高く評価された。ノーベル文学賞の授賞は、人間の条件を照らし出したその文学への、評価だった。戦後イギリスを代表する小説家の一人とされている。