サミュエル・リチャードソン

白いかつらをつけ、こちらを見るサミュエル・リチャードソンの油彩肖像画。
ジョゼフ・ハイモア筆
原綴
Samuel Richardson
生没
1689–1761
出身
ダービーシャー(推定)
イギリス
時代
17-18世紀

生涯

1689年、ダービーシャーの職人の家に生まれたとされる。ロンドンで印刷業者として成功し、印刷所を営むかたわら、五十歳を過ぎてから小説を書き始めた。

きっかけは、手紙の書き方の手本を集めた実用書の仕事だったという。さまざまな場面で交わされる手紙の文例を作るうちに、手紙を連ねるだけで一つの物語が語れることに気づいた。ここから、書簡体小説という形が生まれる。

作風

物語は、登場人物が書き交わす手紙だけで組み立てられる。地の文の語り手はおらず、それぞれが自分の言葉で、いま感じていることをその場で書きつづる。読者は、事件のただ中にいる人物の心の動きを、内側から直に追うことになる。

この方法によって、人の心のためらいや揺れを、それまでにない細かさで写し出した。徳や貞節をめぐる道徳的な主題を、感情に強く訴える筆致で描いている。

作品

『パミラ(Pamela)』(1740年)は、女中のパミラが、主人の言い寄りに屈せず貞節を守り抜き、ついにその主人を改心させて結ばれるまでを、彼女自身の手紙でつづった小説である。

続く『クラリッサ(Clarissa)』(1748年)は、家族と放蕩者のあいだで追いつめられ、破滅していく女性を描いた悲劇で、英語で最も長い小説の一つに数えられる。膨大な手紙の積み重ねによって、追いつめられていく心が余さず刻まれている。

文学史における立ち位置と影響

リチャードソンは、フィールディングとともに近代英国小説の祖に数えられる。手紙による書簡体を完成させ、人物の内面をその場で写し取る心理描写を切り開いた。

この内面への沈潜は、イングランドにとどまらず大陸の小説にも影響を与え、感情を重んじる18世紀後半の文学の流れをうながした。外から社会を描くフィールディングと、内から心を描くリチャードソン——この二つの方向が、その後の小説の土台になっている。

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