トム・ジョーンズ

原題
The History of Tom Jones, a Foundling
作者
ヘンリー・フィールディング
成立
1749
イギリス
時代
17-18世紀

概要

全十八巻の長い小説で、登場人物が非常に多い。それでいて、最後にはすべての伏線が一つの真相へ収束する。この構成の精密さがこの作品の看板にあたる。

主人公トム・ジョーンズは、田舎の郷士オールワージーの屋敷に捨て子として拾われて育つ。快活で寛大で情に厚い。同時に無分別で、女に弱く、次々に過ちを犯す。道徳的に完璧な主人公ではない。 隣家の娘ソフィアと愛し合うが、身分が釣り合わず、悪意ある者たちの策略もあって二人の道は何度も断たれる。

物語は三つに分かれる。田舎の屋敷での出来事。追放されてからの街道の冒険。そしてロンドンでの決着。宿屋の騒動、追いはぎ、決闘、投獄と、事件が絶え間なく起こる。

もう一つの特徴は語り手にある。各巻の冒頭に、作者が小説論や人生論を述べる序章が置かれている。 物語の途中でも語り手はたびたび顔を出し、登場人物を論評し、読者に話しかける。筋を追うだけでは半分しか読んだことにならない造りになっている。

フィールディングはもと劇作家だった。政府批判の風刺劇を書きすぎた結果、検閲法が制定されて劇作の道を絶たれている。 その後は法律家となり治安判事を務めた。犯罪と社会の実態を間近で見た経験が、この作品の人物描写の背景にある。

小説への転身のきっかけは、リチャードソンの『パミラ』への反発だった。使用人の娘が貞操を守り抜いて主人と結婚するという道徳的な小説を、フィールディングは偽善だと感じ、パロディを書いた。そこから小説の執筆が始まっている。内面を掘り下げるリチャードソンに対し、フィールディングは外から人間を眺めて笑う。 二人の対立が、イギリス小説の初期の二つの型を作った。

文学史における評価と影響

18世紀イギリス小説の最高傑作の一つとされる。デフォーリチャードソンとともに、フィールディングはイギリス小説の確立期を代表する作家にあたる。

最大の特徴は構成の精密さにある。膨大な数の登場人物と複雑に絡み合った事件が、最後に一つの真相へ収束していく。張りめぐらされた伏線がすべて回収される見事さは、しばしば時計仕掛けにたとえられる。プロットを設計するという発想そのものが、ここで小説に持ち込まれた。

人物造形もこの作品の魅力である。主人公トムは道徳的に完璧な英雄ではない。無分別で、誘惑に弱く、多くの過ちを犯す。だがその心根は寛大で正直である。フィールディングは、偽善的な完璧さより、欠点を含んだ人間らしい善良さを上に置いた。 リチャードソンの『パミラ』への反発が、そのまま主人公の造形になっている。

語り手の役割も注目される。物語の外からたびたび顔を出し、登場人物を論評し、読者に語りかけ、人生や文学について機知に富んだ考察を披露する。この饒舌で自己主張の強い語り手は、後の小説の語りの技法に大きな影響を与えた。物語が単に語られるだけでなく、誰がどう語るかが作品の一部になる。

あらすじ

裕福な郷士オールワージーは、ある夜、自分のベッドに捨てられた赤ん坊を発見する。心優しいオールワージーはこの子をトム・ジョーンズと名づけ、我が子として育てることにする。トムは、オールワージーの姉の子で同い年のブライフィルとともに育てられる。

トムは快活で寛大な青年に育つ。だがブライフィルは陰険で偽善的だった。ブライフィルはトムを陥れ、オールワージーの財産とトムの恋人を独り占めしようと画策する。 トムは無分別な行いも多く、その欠点につけ込まれて次第に信頼を失っていく。

トムは隣家の郷士ウェスタンの娘、美しく聡明なソフィアと深く愛し合っている。だが捨て子のトムでは身分が釣り合わない。ウェスタンは娘を財産のあるブライフィルと結婚させようとする。ソフィアはこれを嫌う。

ブライフィルの策略によって、トムはついに屋敷から追放される。無一文で、当てもなく街道へ放り出される。 ここから街道での冒険が始まる。宿屋での騒動、追いはぎ、いくつかの女性との色恋沙汰。トムは根は善良だが、目の前の誘惑にたびたび負けてしまう。

一方、ソフィアもまた望まぬ結婚を逃れるため屋敷を抜け出し、ロンドンの親戚を頼って旅に出る。二人の道は交錯してはすれ違う。

舞台はロンドンへ移る。トムはさらに窮地に陥る。ある貴婦人との関係のもつれから決闘騒ぎを起こして投獄され、さらに、自分が関係を持った女性が実は自分の母かもしれないという疑いにも直面する。

だが最後にすべての真相が明らかになる。トムはオールワージーの亡き妹の私生児だった。つまり憎きブライフィルと血のつながった甥である。母かもしれないという疑いも誤解と分かる。ブライフィルの悪事も暴露される。オールワージーはトムの潔白と素性を知り、跡取りとして迎える。すべての誤解が解け、トムはソフィアと結ばれる。

作者

登場する文学史