オルダス・ハクスリー
- 原綴
- Aldous Huxley
- 生没
- 1894–1963
- 出身
- サリー州ゴダルミング
- 国
- イギリス
- 時代
- 20世紀以降
生涯
1894年、イングランド南部サリー州に、著名な学者を輩出した名門の家に生まれた。祖父は、進化論を擁護した高名な生物学者トマス・ハクスリーである。恵まれた知的環境に育ったが、青年期に眼の病で、一時ほとんど視力を失った。この経験が、科学者となる道を断ち、文学へ向かわせた。
はじめは、上流社会の知識人を鋭く風刺する、機知に富んだ小説を書いた。博学で皮肉なその作風は、両大戦間のイギリスで人気を博した。1932年、代表作『すばらしい新世界』を発表した。
後半生は、アメリカに移り住んだ。関心は、しだいに、神秘思想や東洋の哲学、そして人間の意識の探究へと向かった。晩年には、幻覚をもたらす薬物の体験を記した著作も残した。1963年に没した。
作風
ハクスリーの初期の小説は、知的な風刺に特徴がある。上流社会に集う知識人たちの、空虚な議論や、うわべの教養を、皮肉たっぷりに描いた。博識をちりばめ、機知に富む会話を連ねるその作風は、観念小説とも呼ばれる。
その関心の中心には、科学文明が人間に及ぼす影響への、鋭い問いがある。科学と技術が進歩すれば、人間は幸福になるのか。代表作『すばらしい新世界』は、この問いを、恐るべき未来社会の姿として描いた。そこでは、人間は工場で生産され、薬物と娯楽によって、不満のない幸福を与えられている。だがその代償に、自由も、苦悩も、真の人間性も失われている。
思想的な探究が、つねに小説の背後にある。ハクスリーにとって小説は、単なる物語ではなく、人間や文明についての思索を展開する場だった。後年、その探究は、意識の変容や、精神の解放という、神秘思想的な主題へと深まっていった。
作品
『すばらしい新世界(Brave New World)』(1932年)
科学技術によって完全に管理された、未来社会を描いた小説である。人間は人工的に生産され、階級づけられ、薬物と快楽によって、不満なく飼いならされている。安定と幸福のために、自由と人間性が犠牲にされたこの世界を通して、科学文明の行き着く先を問うた。代表的なディストピア(反理想郷)小説にあたる。
知覚をめぐる体験を記した『知覚の扉』は、後半生のハクスリーの、意識の探究を示す著作である。
文学史における立ち位置と影響
ハクスリーは、科学文明の危うさを問う、ディストピア小説の代表的な作家として文学史に名を残す。とりわけ『すばらしい新世界』は、オーウェルの『一九八四年』と並ぶ、二十世紀ディストピア文学の古典とされる。
二つのディストピアは、しばしば対比される。オーウェルが、恐怖と暴力による支配を描いたのに対し、ハクスリーは、快楽と娯楽によって人々が自ら考えることをやめる社会を描いた。人間が、苦痛ではなく、与えられた快楽によって支配されるという洞察は、消費社会が進んだ今日、いっそう鋭さを増している。
科学技術の進歩がもたらす負の側面を、いち早く見据えたその想像力は、後の文学や思想に、大きな影響を与えた。文明の未来を問い続けた知性として、その位置は確固としている。