好色五人女

作者
井原西鶴
成立
1686
日本
時代
近世

概要

実際に起きた事件を五つ集めて小説にした本である。全五巻、一巻に一人の女の話が入る。いずれも当時の人が噂で知っていた事件にあたる。

五人のうち四人が死ぬ。姦通の罪で処刑され、火あぶりになり、心中する。生き延びるのは最後の一人だけである。

だが、これは教訓の書ではない。西鶴は、女たちが罰を受けたことを当然とも不当とも書かない。それぞれが何を望み、何をして、どうなったかを書いて終わる。

注目されるのは、五人が全員、自分から動いていることである。誘惑されたのではない。手代に迫り、男に会うために火をつけ、駆け落ちを持ちかける。当時の女性が置かれていた立場を考えると、この造形は際立っている。

前作好色一代男が一人の男の色事を六十年ぶん並べたのに対し、こちらは女の側から書かれている。 そして相手を次々に変えるのではなく、一人の相手に賭けて破滅する。

特に有名なのが「八百屋お七」の話である。恋しい男に会いたい一心で家に火をつけ、火あぶりになった少女の事件で、実際に1683年に起きている。西鶴の三年後の刊行によって、この話は広く知られるものになった。 以後、歌舞伎、浄瑠璃、落語、映画へと繰り返し作り直されていく。

文学史における評価と影響

西鶴の作品のなかで最も広く読まれてきた一冊にあたる。事件を素材にした点、女性を主人公にした点で、好色一代男とは性格が違う。

評価の中心は女性の造形にある。近世の物語で、女性が自分の意志で選び、その結果として滅びる話は少ない。受け身ではなく、破滅も自分の選択の結果として書かれている。

同時に、西鶴は彼女たちを英雄にもしない。判断は明らかに愚かで、代償は不釣り合いに重い。 その落差をそのまま書くことが、この本の方法にあたる。

「八百屋お七」は日本の物語の共有財産になった。恋のために放火する少女という像は、実在の事件から離れて一人歩きし、無数の作品で使われた。その原型を作ったのがこの本である。

近代には、尾崎紅葉ら硯友社の作家が西鶴を手本とした。樋口一葉の文章にも西鶴の影響が指摘される。

史料としての価値も高い。町の暮らし、婚礼の作法、店の様子、刑罰の実際が具体的に書き込まれている。

あらすじ

巻一「姿姫路清十郎物語」(お夏清十郎)。姫路の造り酒屋の娘お夏が、店に来た手代清十郎と恋に落ちる。二人は駆け落ちする。だが捕らえられ、清十郎は店の金を盗んだ疑いをかけられて処刑される。その金は後に見つかり、無実と分かる。 事実を知ったお夏は狂う。

巻二「情を入れし樽屋物語」(樽屋おせん)。樽職人の妻おせんは、隣家の麹屋の主人に言い寄られる。おせんは相手にしないが、麹屋の妻が疑って騒ぎ立てる。疑われるくらいならと、おせんは本当に関係を持つ。 発覚し、二人は夫に討たれる。

巻三「中段に見る暦屋物語」(おさん茂右衛門)。京の暦屋の妻おさんは、女中の恋を助けるために、女中の寝床で手代茂右衛門を待ち伏せさせるいたずらを企てる。ところが、おさん自身がその場で眠り込んでしまう。 暗闇の中で茂右衛門と関係を持ってしまい、後戻りできなくなる。

二人は死んだと見せかけて逃げ、丹波に隠れ住む。だが見つかり、姦通の罪で処刑される。

巻四「恋草からげし八百屋物語」(八百屋お七)。江戸の大火で焼け出された八百屋の一家が寺に避難する。娘お七は、そこで小姓の吉三郎と出会って恋に落ちる。

家が建て直され、お七は寺を離れる。もう一度火事になれば、また会える。 そう考えたお七は、自分の家に火をつける。

火はすぐ消し止められるが、放火は重罪である。お七は捕らえられ、市中を引き回されて火あぶりになる。 十六歳だった。

巻五「恋の山源五兵衛物語」(おまん源五兵衛)。薩摩の源五兵衛は男色を好み、女を寄せつけない。娘おまんは源五兵衛に恋し、男装して近づく。 正体を明かされた源五兵衛は驚くが、やがて受け入れる。

二人は駆け落ちし、貧窮する。だが最後におまんの親が現れ、二人は許され、財産を得る。五人のうち、この一人だけが生き延びる。

作者

登場する文学史