坊っちゃん

作者
夏目漱石
成立
1906
日本
時代
近代

概要

1906年、俳句雑誌『ホトトギス』に発表された中篇小説である。江戸っ子で無鉄砲な新米教師が、四国の中学校に赴任し、周囲と衝突した末に一月あまりで辞めて帰るまでを描く。主人公自身の一人称で語られ、歯切れのよい口語で通されている。漱石の作品のなかで最も広く読まれ、繰り返し映像化されてきた。

漱石は1895年から翌年にかけて、愛媛県の松山中学校で英語教師をつとめた。この一年の経験が下敷きになっている。ただし作品の出来事は創作で、赴任先での漱石は主人公のように騒動を起こしてはいない。

執筆は1906年、吾輩は猫であるの連載中である。十日ほどで書き上げたと伝えられる。同じ『ホトトギス』に、一挙掲載の形で発表された。

文学史における評価と影響

一人称の口語で最後まで押し通した点が、この作品の特徴である。「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている」という書き出しから、地の文がそのまま主人公の話し声になっている。同時期に二葉亭四迷らが取り組んでいた言文一致の問題に、講釈や落語の話芸の側から答えを出した形になっている。

主人公は正義感が強く、曲がったことを許さない。だが同時に無分別で、事態を悪化させる。作品はその両方を書いており、単純な勧善懲悪にはなっていない。赤シャツを殴っても学校は変わらず、「おれ」は職を失って東京へ帰るだけである。

読者の記憶に残るのは、多くの場合、清である。「おれ」を無条件に信じた下女が、報われないまま死ぬ。この結末があるために、痛快なはずの話に別の後味が残る。

漱石の入口として最も勧められる作品でもある。短く、話が速く、文体の勢いがそのまま読む力になる。そのうえでこころへ進むと、同じ作者とは思えない落差に行き当たる。

著作権保護期間は満了しており、青空文庫で全文を読める。

あらすじ

語り手は「おれ」。東京生まれで、子どもの頃から無鉄砲だった。二階から飛び降りて腰を抜かし、小刀で自分の指を切ってみせる。親には愛されず、兄とも折り合いが悪い。ただ一人、下女の清(きよ)だけが「おれ」を可愛がり、いつか立派になると信じていた。

両親が死に、兄が家を畳んで九州へ去る。「おれ」は残された金で物理学校に入り、卒業後、四国の中学校に数学教師の職を得た。清と別れて赴任する。

学校には癖のある人間が揃っていた。「おれ」は彼らに勝手なあだ名を付ける。校長は狸、教頭は赤シャツ、画学の教師は野だいこ、数学主任は山嵐、英語教師はうらなり。生徒は新任教師をからかい、宿直の夜には布団にバッタを入れられる。「おれ」は正面から怒鳴り返し、騒ぎを大きくしていく。

やがて事情が見えてくる。教頭の赤シャツは、うらなりの婚約者であるマドンナを横取りしようとしており、うらなりを遠方へ転任させる。山嵐はそれに反対して赤シャツと対立し、逆に濡れ衣を着せられて辞職に追い込まれる。

「おれ」は山嵐と組み、赤シャツと野だいこが芸者と密会する現場を明け方まで張り込んで押さえた。二人を捕まえて殴りつけると、そのまま辞表を出して東京へ帰る。

帰った「おれ」は街鉄の技手になり、清と暮らした。清はまもなく肺炎で死ぬ。死ぬ前に、坊っちゃんの寺に埋めてほしいと言った。その通りにした、という一文で作品は終わる。

作者

登場する文学史