群盗

原題
Die Rauber
作者
フリードリヒ・シラー
成立
1781
ドイツ
時代
古典主義・ロマン主義

概要

1781年に刊行され、翌1782年に初演された五幕の戯曲である。シラーの処女作で、二十一歳の作にあたる。

主人公は、貴族の家の兄弟である。理想に燃える兄カールと、冷酷な弟フランツ。兄は弟の策略によって父から勘当され、絶望して義賊の一団の首領になる。 弟は、父と兄を陥れて、家督と、兄の許嫁アマーリアを奪おうとする。

作品を貫くのは、腐敗した社会と法への反逆である。カールは、不正がまかり通り、無力な者が虐げられる世の中に対し、暴力によって正義を行おうとする。だが、義賊の行いは無辜の者をも巻き込み、カールは自らの反逆が新たな不正を生むことに気づく。

シラーは、疾風怒濤(シュトゥルム・ウント・ドラング)の運動の中でこの作品を書いた。理性と規範に反発し、感情と個人の意志を爆発させる若い世代の文学運動である。強烈な感情、社会への反抗、規則を破る劇形式が、この作品の特徴をなす。

シラーは1759年の生まれ。ヴュルテンベルク公国の軍人養成の学校で、厳しい規律の下に教育を受けた。医学を学びながら、密かにこの戯曲を書いた。抑圧的な環境への反発が、作品の反逆の主題に反映している。

初演は1782年、マンハイムの劇場で行われた。若い観客は熱狂した。同時代の記録によれば、劇場は興奮のるつぼと化したという。だが、この上演は、シラーが所属する公国の許可なく行われたものだった。公爵はシラーに、以後、医学以外の著述を禁じる命令を出す。シラーは、これに従えば作家として生きられないと考え、公国から脱走した。 以後、各地を転々とする亡命に近い生活を送る。

この作品は、当初、副題に「圧制者に抗して」と近い趣旨の言葉が掲げられ、扉には「暴君に反対する」というラテン語の句が記された版もある。専制への反抗という政治的な色彩が、明確に打ち出されていた。

フランス革命期、シラーはこの作品によって、フランス共和国から名誉市民の称号を贈られている。

文学史における評価と影響

疾風怒濤の代表作であり、ドイツ近代演劇の出発点の一つとされる。ゲーテ若きウェルテルの悩みと並んで、感情の解放と社会への反抗を掲げた若い世代の文学を代表する。

主人公カールの造形は、その後の文学に長く影響した。高潔でありながら社会からはみ出し、法の外で正義を求め、最後に破滅する。「高貴な盗賊」という人物像は、以後のロマン主義文学に繰り返し現れる。バイロン的な反逆者の像や、義賊を主人公とする物語の系譜に、この作品は連なる。

思想の面では、この作品は単純な反逆の讃美ではない。カールの反逆は、それ自体が新たな不正を生み、無辜の者を殺す。法を個人の手で破ることの限界が、作品の結末で示される。この点で、若書きの激情だけの作品ではなく、反逆の帰結までを見据えている。

シラーは、この後、歴史劇や美学の理論へ向かい、ゲーテとの交流を経て、ドイツ古典主義を代表する作家になる。若き日の激情的なこの作品と、後年の均整のとれた古典的な作風の落差は、しばしば論じられる。

ヴェルディがこの作品をオペラ化している。日本でも訳が読める。舞台上演も行われる。

あらすじ

フランケンの伯爵モール家。長男カールは、大学で自由と理想に燃える青年である。放蕩もするが、根は高潔である。弟フランツは、醜く生まれ、兄への嫉妬と、家督を継げない立場への恨みを抱いている。

フランツは、兄が大学で乱行を重ねていると偽り、その手紙を改竄して父に見せる。老伯爵は嘆く。フランツはさらに、父の名で、勘当を告げる冷酷な返事をカールに送る。父から見捨てられたと信じたカールは、絶望する。「人間らしさに絶望した」カールは、仲間とともに義賊の一団を組み、その首領となる。

カールの一団は、ボヘミアの森を根城に、富める者を襲い、圧制者を罰する。カールは、腐敗した社会に対する復讐者として振る舞う。だが、仲間の中には、単なる殺人と略奪を楽しむ者もいる。ある襲撃で、罪のない人々が犠牲になり、町が焼かれ、赤子までが死ぬ。カールは、自分の反逆が、正そうとした不正と変わらぬ悪を生んでいることを知る。

一方、家では、フランツが実権を握る。父を幽閉し、餓死させようとする。兄の許嫁アマーリアに言い寄るが、拒まれる。

カールは、正体を隠して故郷に戻る。塔に幽閉され、飢えに苦しむ老いた父を発見する。父は、フランツによって死んだと偽られていた。カールは、弟の非道を知り、復讐を誓う。だが、自分が義賊の首領であることは明かせない。

義賊の一団が城を襲う。追い詰められたフランツは、絶望と恐怖のうちに自ら命を絶つ。カールは、ついに父の前で正体を明かす。父は、息子が盗賊の首領になったことを知り、衝撃で息絶える。

許嫁アマーリアは、カールと再会し、盗賊であろうと共にいたいと願う。だがカールは、義賊の仲間との盟約に縛られている。仲間は、アマーリアを諦めることを首領に迫る。カールは、アマーリア自身の求めに応じて、その手で刺す。

すべてを失ったカールは、自らの反逆が誤りだったと悟る。法を、自分の手で破ることによっては、世界は正されない。 カールは義賊の一団を離れ、自首する道を選ぶ。かつて自分に懸賞金がかけられていたことを思い出し、その金が貧しい日雇いの一家を救うようにと、自ら官憲に身を委ねに行くところで幕が下りる。

作者

登場する文学史