女の一生
- 原題
- Une vie
- 作者
- ギ・ド・モーパッサン
- 成立
- 1883
- 国
- フランス
- 時代
- 19世紀
概要
1883年に刊行された長篇小説である。モーパッサンが1880年の脂肪の塊で世に出てから三年後にあたり、最初の長篇にあたる。
主人公ジャンヌは、ノルマンディーの小貴族の娘である。修道院付属の学校を出たところから話が始まり、五十歳近くまでが追われる。
期待していたことが一つずつ外れていく、という進み方をする。結婚は幸福をもたらさず、夫は使用人と、次いで近隣の人妻と関係を持つ。息子は学業を捨てて出奔し、金だけを要求してくる。財産は減り、屋敷は売られる。
作品には大きな事件が二つある。夫の死と、両親の死である。それ以外は日常が続く。モーパッサンはこの単調さを意図しており、章を年ごとに区切らず、季節と屋敷の情景で時間の経過を示す。
モーパッサンは1850年、ノルマンディーに生まれた。母はフロベールの旧友の妹で、その縁からモーパッサンは十代からフロベールの指導を受けている。
両親は不仲で、モーパッサンが十一歳のころ別居した。父に女性関係の問題があったと伝えられる。作中のジャンヌの結婚生活には、この記憶が反映しているとみられる。
執筆は数年にわたった。フロベールは草稿を読み、助言を与えている。フロベールは1880年に死去しており、完成を見ていない。
刊行時、書店の一部が販売を拒んだ。内容が不道徳だという理由による。モーパッサンは新聞に抗議文を出している。
作品は売れた。以後モーパッサンは長篇も書くようになり、二年後にベラミを出す。
文学史における評価と影響
事件によってではなく、時間の経過によって進む小説として扱われる。ジャンヌは何かを決断することがほとんどない。起きたことを受け止め、次の期待に移り、それも外れる。この繰り返しで五十年が過ぎる。
フロベールのボヴァリー夫人との比較が定番になっている。どちらも地方の女性の期待と幻滅を扱う。違いは、エンマが行動して破滅するのに対し、ジャンヌはほとんど行動しない点にある。エンマは不倫し、借金を作り、自殺する。ジャンヌは耐え続け、生き残る。
ロザリの位置も論じられる。夫に手をつけられて追い出された女中が、最後にはジャンヌを支える立場になる。財産を持つ側と持たない側が入れ替わる。ロザリのほうが現実に強く、金の勘定ができ、決断もする。
結末の一行は、この作品全体の要約として引かれることが多い。ただしこれを語るのはジャンヌではなくロザリで、苦労してきた側の言葉として置かれている。
日本での受容は独特である。1930年代以降、この題は日本語で慣用句のように使われ、女性の生涯を扱った作品の題として繰り返し借用された。原題は単に「ある一生」にあたり、女性を指す語は入っていない。
あらすじ
1819年、十七歳のジャンヌが修道院付属の学校を出て、両親とノルマンディーの海辺の屋敷「白楊館」に移る。父ル・ペルテュイ男爵は善良で無計画な人物、母は太って動けなくなりつつある。
ジャンヌは結婚を待っている。近隣のジュリヤン・ド・ラマール子爵と知り合い、まもなく結婚する。
新婚旅行でコルシカへ行く。帰ってから、ジュリヤンの本性が現れる。倹約を通り越した吝嗇で、暖炉の薪を減らし、使用人を減らす。ジャンヌへの関心も薄れる。
女中ロザリが身ごもる。ロザリはジャンヌの乳姉妹で、幼いころから一緒に育った。父親が誰かを言わない。問い詰めた結果、ジュリヤンだと分かる。
ジャンヌは雪の夜に屋敷を飛び出し、崖の上で倒れる。助けられ、流産しかける。両親はロザリを金をつけて別の男に嫁がせ、遠くへやる。ジャンヌは屋敷に留まる。
息子ポールが生まれる。ジャンヌはこの子だけを支えにする。
ジュリヤンは、近隣のフルヴィル伯爵の妻ジルベルトと関係を持つ。二人は羊飼いの小屋で会っている。それを知ったフルヴィル伯爵は、二人が入っている移動式の小屋を崖まで押していき、突き落とす。二人は死ぬ。事故として処理される。
ジャンヌは息子ポールを溺愛して育てる。学校に入れても寂しがって連れ戻す。ポールは十五歳で寄宿学校に入れられるが、なじまない。
ポールはル・アーヴルで女と暮らし始め、学校を辞める。以後、金の無心の手紙だけが届く。ジャンヌは送り続ける。父男爵が死ぬ。財産が減っていく。
ポールの借金のため、屋敷「白楊館」を売ることになる。ジャンヌは生まれ育った家を離れ、小さな家に移る。
そこへロザリが戻ってくる。夫を亡くし、息子を一人前にしたロザリは、ジャンヌの世話を引き受ける。以後、家計を握り、支出を管理する。かつて追い出された女中が、いまはこの家を支えている。
ポールから手紙が来る。同棲していた女が病気で死にかけており、生まれた子を引き取ってほしいという。
ロザリが赤ん坊を迎えに行く。連れ帰る。
作品の最後、ロザリがジャンヌに言う。人生というものは、人が思うほど良くも悪くもないものですね。