星の王子さま

原題
Le Petit Prince
作者
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
成立
1943
フランス
時代
20世紀以降

概要

1943年4月、ニューヨークで刊行された物語である。英訳版とフランス語版が同時に出た。フランスでの刊行は戦後の1946年になる。

著者サン=テグジュペリ自身が描いた水彩の挿絵が入る。挿絵は装飾ではなく本文の一部で、最初の数ページは絵をめぐるやりとりで進む。

語り手は砂漠に不時着した飛行士である。修理をしている飛行士の前に、小さな王子が現れる。王子は自分の星を離れ、いくつかの星を回ってから地球に来た。全二十七章のうち、大半はこの王子が語る旅の話が占める。

子ども向けの体裁をとりながら、冒頭で大人に宛てた献辞が置かれ、大人の考え方への皮肉が繰り返される。

サン=テグジュペリは1900年、リヨンの貴族の家に生まれた。1926年から郵便輸送の飛行士として働き、トゥールーズからアフリカ西岸、後に南米への路線を飛んだ。1935年にはパリからサイゴンへの飛行記録に挑んでリビア砂漠に不時着し、四日間さまよったのち遊牧民に助けられている。作品冒頭の設定はこの経験による。

1940年のフランス降伏後、サン=テグジュペリはアメリカに亡命した。この作品はニューヨークで書かれている。当時、亡命フランス人のあいだではドゴール派とヴィシー政権への態度をめぐる対立があり、サン=テグジュペリはどちらとも距離を置いて孤立していた。

献辞は友人レオン・ヴェルトに宛てられる。ユダヤ人で、占領下のフランスに残っていた。献辞では、子どもの本を大人に捧げることを詫び、この人は大人だがかつては子どもだったと断っている。

刊行の翌1944年7月31日、サン=テグジュペリは偵察飛行のためコルシカ島を離陸し、戻らなかった。四十四歳だった。1998年にマルセイユ沖で銘入りのブレスレットが見つかり、2000年に機体の残骸が確認された。

文学史における評価と影響

三百を超える言語と方言に訳されている。翻訳数では聖書に次ぐとしばしば言われるが、この比較の根拠ははっきりしない。

寓話として読めるが、教訓は一つに定まらない。キツネの言う「飼いならす」は、時間をかけた相手だけが特別になるという考え方を示す。一方で王子は、そのバラのもとへ帰るために体を捨てる。この結末を帰還と読むか死と読むかで、作品の印象が変わる。

大人への皮肉は具体的である。数字でしか物事を測らない、所有を目的にする、自分の仕事の意味を問わない。訪ねた星の住人はそれぞれ一つの型を担っている。なかでも地理学者が花を記録しないというくだりは、記録に値するものを何で決めるかという問いになっている。

サン=テグジュペリの他の作品は、夜間飛行にせよ人間の土地にせよ、飛行士の仕事と責任を扱う。この作品だけが子どもを語り相手にしており、経歴のなかでは例外にあたる。

日本では1953年に岩波少年文庫として内藤濯訳が出た。「星の王子さま」という題は原題の訳ではなく、内藤による命名である。2005年に著作権の保護期間が満了した後、新訳が多数出た。訳題も『あのときの王子くん』『小さな王子』など複数ある。

あらすじ

語り手は六歳のとき、象を呑み込んだ蛇の絵を描いた。大人はそれを帽子だと言った。二枚目に断面図を描いて見せると、大人は絵をやめて地理や算数を勉強しろと言った。語り手は画家になるのをやめ、飛行士になった。

六年前、語り手はサハラ砂漠に不時着した。修理をしなければ一週間分の水しかない。一夜明けた朝、小さな声が羊の絵を描いてくれと言う。目の前に金色の髪の子どもが立っている。

語り手が羊を描くと、王子はどれも気に入らない。腹を立てて箱を描き、この中に羊がいると言うと、王子は満足する。

少しずつ王子の星のことが分かる。小惑星B612という、家一軒ほどの大きさの星である。バオバブの芽を毎日抜かないと星が割れてしまう。火山が三つあり、王子はそれを掃除している。

ある日、その星にバラが一輪咲いた。バラは自分が世界に一つだけの花だと言い、風よけを求め、咳をしてみせ、王子を困らせる。王子は世話をするが、その言葉に振り回されて疲れ、星を出る。

王子は近くの星を順に訪ねる。王は、臣下が一人もいないのに命令ばかりしている。うぬぼれ屋は、賞賛の言葉しか耳に入らない。呑み助は、酒を飲むのが恥ずかしく、その恥を忘れるために飲む。実業家は、星の数を数え、それを所有していると言い、紙に書いて銀行に預ける。点燈夫は、星が速く回るようになったため、一分ごとに街灯を点けたり消したりし続けている。地理学者は、机を離れないので、自分の星に何があるかも知らない。地理学者は花を記録しない、花ははかないからだ、と言う。王子はここで自分のバラがはかないと知る。

七番目に地球へ来る。まず蛇に会い、次にキツネに会う。

キツネは王子に「飼いならす」ことを教える。関係を作る、という意味である。毎日同じ時刻に来てくれれば、その時刻が近づくころから幸せになる、とキツネは言う。王子は五千本のバラが咲く庭を見たあとで、自分のバラは特別ではなかったと落ち込んでいる。キツネはそこで、自分のバラのために費やした時間が、そのバラを大切なものにしていると言う。別れ際に秘密を告げる。大切なものは目に見えない。

王子は自分の星に帰ろうとする。だが体は重くて運べない。一年前に地球に落ちた場所で、蛇に噛ませることにする。

語り手は井戸を見つけ、飛行機の修理も終える。王子は蛇に噛まれ、音もなく倒れる。翌朝、体は消えている。

六年経ったいま、語り手は夜空を見上げるたび、どこかの星で王子が笑っているように思う。読者に向けて、砂漠で金色の髪の子どもに会ったら知らせてほしい、と頼んで終わる。

作者

登場する文学史