レ・ミゼラブル
- 原題
- Les Misérables
- 作者
- ヴィクトル・ユゴー
- 成立
- 1862
- 国
- フランス
- 時代
- 19世紀
概要
1862年に刊行された長篇小説である。全五部からなり、日本語訳で文庫五冊前後になる。パン一斤を盗んで19年服役した男ジャン・ヴァルジャンが、司教の慈悲をきっかけに生き直し、法を絶対とする警官ジャヴェールに追われ続ける。貧困、司法、修道院、パリの下水道、1832年の蜂起といった主題が、本筋を止めて数十ページにわたって挿入される。ユゴーが19年の亡命生活のなかで完成させた。各国語版がほぼ同時に出て、19世紀としては異例の国際的ベストセラーになっている。
ユゴーは1845年ごろから「レ・ミゼール」の題で執筆を始めたが、1848年の二月革命で中断した。1851年、ナポレオン三世のクーデタに反対して国外へ脱出し、以後19年の亡命生活に入る。ベルギーを経て、イギリス領のジャージー島、ガーンジー島に住んだ。この亡命中の1860年に執筆を再開し、1862年に完成させている。
刊行は同年、パリ・ブリュッセル・ロンドン・ライプツィヒなどでほぼ同時に行われた。フランスでは発売初日から書店に人が並んだと伝えられる。批評家の評価は割れたが、売れ行きは圧倒的だった。
ユゴーは恩赦が出ても帰国を拒み、1870年の第二帝政崩壊まで亡命を続けている。
文学史における評価と影響
社会問題を小説の主題に据えた作品である。貧困が人を犯罪に追いやり、一度の服役が生涯の烙印になる。ユゴーは序文で、法と習慣による社会的な断罪が続くかぎり、この種の書物は無用ではない、という趣旨を書いた。文学が社会を変える手段になりうるという考え方は、後の社会派の小説に受け継がれている。
構図は対比で組まれている。ヴァルジャンとジャヴェールは、どちらも自分の正しさに従っており、単純な善悪ではない。ジャヴェールは法を絶対と信じてきた人物で、その信念が崩れた瞬間に自死する。悪人として書かれていない点が、この人物を際立たせている。
長い脱線も特徴である。ワーテルローの戦い、パリの下水道の歴史、修道院の制度、隠語の研究。本筋を止めて数十ページ続くこれらの章は、筋を効率よく運ぶことより社会全体を見せることを優先した結果である。読みにくさの原因でもあり、抄訳では真っ先に削られる。
今日では、原作を読んでいない層にも届いている。ミュージカル版と映画が世界各地で上演・公開され続けており、作品が原作の読者数をはるかに超えて流通している例になっている。
日本では黒岩涙香が『噫無情』の題で翻案し、1902年から新聞に連載した。原作の忠実な翻訳ではなく人名や設定を改めたものだが、これによって広く知られるようになった。
あらすじ
第一部「ファンチーヌ」。ジャン・ヴァルジャンは、飢えた甥のためにパンを一斤盗み、脱獄を重ねて19年を徒刑場で過ごした。出獄しても黄色い旅券のせいで宿にも入れない。ディーニュの町でミリエル司教だけが彼を迎え入れるが、ヴァルジャンは銀の食器を盗んで逃げる。憲兵に捕らえられて連れ戻されたとき、司教は「その燭台もあげたはずだ」と言って彼をかばった。この一件がヴァルジャンを変える。
名を変えたヴァルジャンは、事業を興して成功し、モントルイユの町長になっていた。工場で働いていたファンチーヌは、隠していた私生児が知られて解雇され、髪と歯を売り、娼婦に落ちて病に倒れる。ヴァルジャンは彼女を救おうとするが、そのとき別の男が「ジャン・ヴァルジャン」として裁かれようとしていることを知る。彼は法廷に出て正体を明かした。ファンチーヌは死ぬ。
第二部「コゼット」。ヴァルジャンは再び捕らえられるが脱獄し、ファンチーヌの娘コゼットを、預けられていた宿屋テナルディエ夫妻のもとから引き取る。二人はパリの修道院に身を隠して暮らした。
第三部「マリユス」。青年マリユスは、王党派の祖父と決別し、貧しい暮らしのなかで共和主義に近づく。隣室に住むのはテナルディエ一家だった。マリユスは、公園で見かけたコゼットに恋をする。
第四部「プリューメ街」。マリユスとコゼットは想いを通わせる。テナルディエがヴァルジャンを襲おうとし、警官ジャヴェールが現れる。1832年6月、パリで共和派の蜂起が起こり、マリユスは市街のバリケードへ向かった。
第五部「ジャン・ヴァルジャン」。ヴァルジャンもバリケードへ行く。捕らえられていたジャヴェールの処刑を任されると、彼を逃がした。蜂起は鎮圧され、負傷したマリユスを背負ったヴァルジャンは、下水道を通って脱出する。出口でジャヴェールに出会うが、ジャヴェールは彼を見逃した。法を絶対としてきた自分が犯人を逃がしたことに耐えられず、ジャヴェールはセーヌ川に身を投げる。
マリユスとコゼットは結婚する。ヴァルジャンは自分の過去を明かし、二人から遠ざかって独り衰弱していく。テナルディエの口から、下水道でマリユスを救ったのがヴァルジャンだったと知った二人が駆けつけたとき、ヴァルジャンは司教から贈られた燭台の灯のもとで息を引き取る。