アルベール・カミュ
- 原綴
- Albert Camus
- 生没
- 1913–1960
- 出身
- フランス領アルジェリア・モンドヴィ(現ドレアン)
- 国
- フランス
- 時代
- 20世紀以降
生涯
1913年、当時フランスの植民地だったアルジェリアに生まれた。父は生後まもなく第一次大戦で戦死し、読み書きのできない母と祖母のもとで、貧しい地区で育った。この出自は作品の背景に一貫して残る。
小学校の教師が才能を見出して奨学金の道をつけ、進学できた。大学で哲学を学ぶが、17歳で結核を発症する。教員資格の受験資格を失い、以後も再発を繰り返した。新聞記者として働き、アルジェリアのアラブ系住民の貧困を報じたが、この記事が当局に問題視されて職を失っている。
1940年にパリへ移り、1942年に異邦人と評論シーシュポスの神話を相次いで発表した。この2冊で一挙に知られる。第二次大戦中はレジスタンスに加わり、地下新聞『コンバ』の編集に携わった。戦後も同紙の主筆として論説を書き続け、作家であると同時に言論人として影響力を持つ。
1951年の反抗的人間で、革命が暴力を正当化する論理を批判した。これが翌1952年のサルトルとの決裂につながる。サルトル側の陣営が同書を激しく批判し、公開の応酬を経て絶交した。
アルジェリア戦争では難しい立場に立った。独立運動の暴力もフランス軍の弾圧も認めず、双方に停戦を訴えたが、どちらの側からも受け入れられていない。アルジェリア生まれのフランス人という出自が、この位置と関係している。
1957年、43歳でノーベル文学賞を受けた。史上2番目に若い受賞である。1960年、友人の運転する車の事故で死去。46歳だった。鞄には未完の自伝的小説最初の人間の草稿が入っており、1994年に刊行された。
作風
カミュの中心にある概念が「不条理」である。シーシュポスの神話で定義している。人間は世界に意味を求める。だが世界は答えない。この求めと沈黙の断絶そのものが不条理である。世界が無意味なのでも、人間が愚かなのでもなく、両者の関係に生じる裂け目を指す。
そのうえでカミュは自殺を退ける。意味がないと知りながら生き続けることを選ぶ、という立場をとる。神々に罰せられ、山頂へ岩を押し上げては転げ落ちるのを永遠に繰り返すシーシュポスを例に引き、その反復を引き受けた者は幸福だと考えるべきだと結論する。
文体は簡潔である。異邦人では複文をほとんど使わず、感情の説明を省き、短い文を並べる。冒頭は「きょう、ママンが死んだ。あるいは昨日かもしれないが、わからない」と始まる。母の死をどう感じたかは書かれない。この文体そのものが主題を体現していると読まれてきた。世界が意味を語らないのだから、語り手も意味を語らない。
後期には主題が移る。個人が不条理とどう向き合うかから、他者と共にどう振る舞うかへ、である。ペストでは、災厄を前にして人々が逃げるか、留まって働くかが問われる。
作品
異邦人(L'Étranger)(1942年)
代表作である。アルジェの平凡な会社員ムルソーが、母の葬儀で泣かず、翌日に海水浴と情事をし、数日後にアラブ人の男を射殺する。裁判で問われるのは殺人そのものより、母の葬儀で泣かなかったことである。検事はムルソーを「魂を持たない人間」と論告し、死刑が確定する。社会が求める型どおりの感情を示さない者は、それだけで排除されるという構図になっている。
シーシュポスの神話(1942年)
評論で、不条理の定義と、それでも生きるという結論を示す。
ペスト(1947年)
長篇である。アルジェリアの都市オランが疫病で封鎖され、医師リウーを中心に人々が対処にあたる。英雄的な行動としてではなく、職務として淡々と続ける態度が肯定される。ナチス占領下のフランスの寓意としても読まれてきた。
反抗的人間(1951年)
評論で、反抗が革命に転じ、革命が新たな抑圧を生む過程を批判した。サルトルとの決裂の原因になった書物である。
転落(1956年)
アムステルダムのバーで男が見知らぬ相手に語り続ける独白体の中篇である。自分の偽善を告白しながら、聞き手をも同罪に引き込んでいく構造をとる。
最初の人間(1994年、未完・死後刊行)
アルジェリアでの少年時代を書いた自伝的小説である。
文学史における立ち位置と影響
カミュは「意味のない世界でどう生きるか」という問いを、小説と評論の両方で立てた。第二次大戦とその前後、ヨーロッパでは既存の価値の枠組みが崩れていた。カミュはその状況を「不条理」という一語で捉え直し、絶望にも信仰にも逃げない第三の道を示そうとした。この問いの立て方が、戦後の読者に広く受け入れられた。
実存主義の文脈で語られることが多いが、本人はそのラベルを繰り返し拒んでいる。サルトルとの決裂もあり、一つの流派として括ることには当事者の側から異論があった。
| 立場 | |
|---|---|
| ジャン=ポール・サルトル | 人間は自由であり、状況に対して選択する責任を負う。政治的な関与を重視 |
| カミュ | 世界は答えない。それでも生きる。暴力の正当化を拒む |
文体の影響も大きい。異邦人の乾いた短文は、内面を説明しない語りの手本として広く模倣された。
アルジェリア出身のフランス人作家という位置は、後年になって論点になっている。異邦人で殺されるアラブ人には名前が与えられていない。この点は植民地主義の視線として批判され、2013年にはアルジェリアの作家カメル・ダーウドが、殺された男の弟の視点から書き直した小説『ムルソー再捜査』を発表した。
日本では異邦人が繰り返し訳され、戦後文学の必読書として定着している。