デイヴィッド・コパフィールド

原題
David Copperfield
作者
チャールズ・ディケンズ
成立
1849-1850
イギリス
時代
ヴィクトリア朝

概要

1849年から1850年にかけて月刊で連載された長篇小説である。ディケンズの作品のなかでも、作者自身が最も愛したものとして知られる。

物語は、主人公デイヴィッド・コパフィールドが自分の半生を回想して語る一人称の形をとる。生まれる前に父を失い、幼くして母も失って孤児同然になった少年が、数々の苦難と出会いを経て、やがて作家として成功するまでを描く。

この作品の魅力は人物の豊かさにある。デイヴィッドが生涯で出会う無数の人物が、それぞれ忘れがたい個性を持つ。金銭に無頓着で借金に追われながら楽天的なミコーバー氏、冷酷な義父マードストン、へりくだった態度の裏で人の財産を狙うユライア・ヒープ。いずれも英文学屈指の脇役として知られている。

ディケンズは1812年の生まれである。この作品には少年時代の体験が色濃く投影されている。父が借金で投獄されたため学校をやめさせられ、靴墨工場で瓶にラベルを貼る仕事をさせられた。この屈辱を、ディケンズは長く誰にも語らなかった。妻にさえ話していない。デイヴィッドが工場で働く場面は、その未発表の手記をほぼそのまま使ったものである。

主人公のイニシャルが「D.C.」で、作者「C.D.」を逆さにしたものになっている。執筆中にこれに気づいたディケンズは、偶然の一致に驚いたと友人に書き送った。

序文でディケンズはこの作品を自分のお気に入りの子と呼んでいる。

文学史における評価と影響

ヴィクトリア朝を代表するディケンズの代表作の一つである。とりわけ、主人公の成長を追う教養小説の傑作として評価が高い。

成長という主題がその核心にある。無力な少年が苦難と出会いを通じて一人前になる。その過程で、人を見る目と、何が本当に価値あるかを見分ける力を身につけていく。愛らしいが頼りないドーラから、聡明で誠実なアグネスへ、という心の移りが、その成熟を示している。

作品を際立たせているのは人物の豊かさである。脇役の一人ひとりに忘れがたい個性が与えられ、それぞれが脇役の枠を超えて独立した生命を持つ。この人物創造の力がディケンズ最大の才能であり、この作品でその頂点に達している。

社会批判の視点も含まれる。子どもの労働、劣悪な学校、債務者監獄。ヴィクトリア朝社会の暗部が鋭く描かれるが、告発としてではなく、物語の一部として自然に組み込まれている。

後の作家への影響も大きい。トルストイはこの作品を高く評価し、ドストエフスキーもディケンズを愛読した。日本でも早くから訳され、広く読まれている。ディケンズを読み始める一冊として勧められることが多い。翻訳は複数ある。

あらすじ

デイヴィッド・コパフィールドは父の死後に生まれる。幼い日々は優しい母と女中ペゴティーに囲まれて幸福だった。だが母が冷酷なマードストン氏と再婚したところから不幸が始まる。義父とその姉は少年を厳しく扱い、やがて学校へ追いやった。まもなく母が死ぬ。

孤児となったデイヴィッドは、義父の指図でロンドンの工場へ送られ、幼いまま働かされる。この場面はディケンズ自身の少年時代の体験に基づく。デイヴィッドは下宿先でミコーバー一家と知り合った。ミコーバー氏は借金だらけだが憎めない楽天家で、何かいいことが起きるはずだと言い続けている。

耐えかねたデイヴィッドは工場を逃げ出し、遠くに住む大伯母ベッツィー・トロットウッドのもとへ歩いてたどり着く。変わり者だが心の優しいこの大伯母が引き取り、教育を受けさせた。ここから境遇が好転していく。

成長したデイヴィッドは法律事務所で働き始め、事務所の主人の娘ドーラと恋に落ちて結婚する。だがドーラは愛らしいものの、家計も家事もまったくこなせない。理想と現実のずれにデイヴィッドは戸惑う。ドーラは若くして病で死ぬ。

その周囲でもさまざまな事件が起きる。旧友スティアフォースがペゴティーの姪エミリーを誘惑して駆け落ちし、やがて捨てる。ユライア・ヒープは、大伯母や恩人ウィックフィールドの財産を奪おうと画策する。この悪事を暴くのがミコーバー氏だった。ヒープのもとで働くうちに不正の証拠を握り、人々の前でこれを告発する。

数々の試練を経て、デイヴィッドは作家として成功する。そして、長いあいだ自分を静かに支えていた聡明なアグネスへの愛にようやく気づいた。二人は結ばれ、穏やかな家庭を築く。物語はその成熟のうちに閉じられる。

作者

登場する文学史