純情小曲集

作者
萩原朔太郎
成立
1925
日本
時代
近代

概要

初期の抒情詩と、故郷への思いをうたった詩を収めた詩集である。

朔太郎月に吠える青猫で口語自由詩を切り開いた。この『純情小曲集』は二部に分かれる。 前半「愛憐詩篇」には朔太郎がごく若い頃に書いた初期の抒情詩が収められている。

後半の「郷土望景詩」がこの詩集の核心にあたる。ここでは朔太郎は文語を用いて、故郷・前橋への複雑な感情をうたう。故郷を愛しながら、同時にそこに縛られ疎まれることへの、憎しみに近い思いである。

代表作「広瀬川」「小出新道」などにその感情が表れる。故郷の川や道を前にして詩人の胸に湧く、愛憎の入り混じったやるせない思いが、荘重な文語で刻まれる。

この「郷土望景詩」の文語は、後の氷島の文語回帰を先取りするものにあたる。口語のやわらかさでは掬いきれない激しく屈折した感情が、ここで文語を求めている。

故郷への愛憎という近代人の普遍的な主題を、朔太郎はこの詩集で鋭く定着させた。

文学史における評価と影響

萩原朔太郎の詩集のなかで独自の位置を占める作品であり、とりわけ後半の「郷土望景詩」が高く評価されている。

この詩集は朔太郎の詩の二つの側面を示している。 前半「愛憐詩篇」は口語自由詩を確立する以前の、初期の甘美な抒情を伝える。後半「郷土望景詩」は口語詩を極めた後に文語へと向かう、朔太郎の後年の展開を予告する。

「郷土望景詩」の主題は故郷への愛憎である。朔太郎にとって故郷・前橋は、生まれ育った懐かしい土地であると同時に、自分を理解せず束縛する疎ましい場所でもあった。その相反する感情を朔太郎は隠さずにうたった。 故郷を賛美するのでも単に嫌うのでもない複雑で正直な感情が、近代人の心性を映している。

文語の使用がこの主題と深く結びついている。屈折した激しい感情を盛るために、朔太郎は口語ではなく堅固な文語を選んだ。この選択は晩年の詩集氷島でいっそう徹底されることになる。

故郷をめぐる愛憎の名篇として、「郷土望景詩」は日本近代詩のなかで繰り返し読まれてきた。朔太郎の詩の重要な一面を担う詩集にあたる。

内容

詩集『純情小曲集』萩原朔太郎が刊行した詩集で、大きく二つの部分から構成されている。

前半は「愛憐詩篇」である。ここには朔太郎が月に吠えるで口語自由詩を確立するよりも前、まだ若い日々に書いた初期の抒情詩が収められている。甘くやわらかく初々しい青春の抒情が、そこにはある。

そしてこの詩集の中心をなすのが、後半の「郷土望景詩」である。

ここで朔太郎は口語ではなく格調高い文語を用いる。うたわれるのは故郷・前橋の風景と、それをめぐる詩人の複雑な感情である。

朔太郎にとって故郷は、単純に懐かしい土地ではなかった。そこは生まれ育った懐かしい場所であると同時に、自分の芸術を理解せず変わり者として遇し束縛してくる、うとましい場所でもあった。

「広瀬川」では故郷を流れる川を前にして、詩人の胸に寂寞とした思いが湧く。「小出新道」では故郷の一本の道を眺めながら、そこを立ち去りたいという願いと、そこに縛りつけられている現実へのいらだちと絶望がうたわれる。

故郷への愛と憎しみ。懐かしさとうとましさ。その相反する感情が、堅固な文語の韻律にのって屈折したまま激しく刻まれる。

この「郷土望景詩」に見られる文語による激情の表現は、やがて晩年の詩集氷島でいっそう徹底されることになる、朔太郎の後年の方向を先取りするものだった。

初期のやわらかな抒情と、故郷をめぐる屈折した愛憎。朔太郎の詩の二つの顔をあわせ持つこの詩集は、近代詩における故郷詠の名品として読み継がれている。

作者

登場する文学史