中世のドイツ文学 — ニーベルンゲンの歌とミンネザング

中世のドイツ文学は、1100年頃から1500年頃までを指す。

まず前提を確認する。この時代に「ドイツ」という国はない。 神聖ローマ帝国という緩やかな枠の中に、多数の領邦が並んでいた。統一国家ができるのは1871年である。つまりドイツ文学史の大部分は、国家より先に言語と文学があった時代の話になる。ここで扱うのは、中高ドイツ語で書かれたものである。

中世ドイツの主な作品

作品成立作者種類
パルチヴァール1200〜1210年頃ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ宮廷叙事詩
ニーベルンゲンの歌1200年頃未詳英雄叙事詩
『トリスタン』1210年頃ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク宮廷叙事詩
恋愛歌・政治詩1200年前後ヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ

宮廷文学は、フランスから輸入して翻案された

12世紀後半から13世紀前半にかけて、宮廷を場とする文学が栄えた。

素材の多くはフランスから来ている。アーサー王物語、聖杯の探求、トリスタン伝説。フランスの宮廷文学がヨーロッパの規範であり、ドイツの詩人はそれを翻案した。 ただし翻案の仕方に違いが出る。

ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハパルチヴァールは、無知な少年が騎士となり、過ちを犯し、長い遍歴の末に聖杯の王になる物語である。愚か者が問いを発しなかったことが、中心の欠落として置かれる。 同情から発せられるべき問いを口にしなかったために、すべてがやり直しになる。この構造が、後のの遠い先例として語られることがある。主人公が失敗を通じて成熟する、という形式である。作品はワーグナーの楽劇の下敷きにもなった。

ゴットフリート・フォン・シュトラースブルクの『トリスタン』は、同じ伝説を扱いながら、恋愛を社会秩序と正面から対立させる。媚薬によって生じた愛が、忠誠や結婚といった規範をすべて上回る。未完のまま終わっている。

ミンネザングは、成就しない恋を歌う型を持っていた

は、騎士が高貴な女性に仕える形の恋愛叙情詩である。南フランスのトルバドゥールの形式が源にある。

型が決まっている。相手は既婚の高位の女性で、愛は成就しない。 その奉仕によって歌い手が高められる、という構図をとる。

ヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデはこの型の中で最も評価が高い。理由は、型から外れた歌も作ったことにある。身分の低い娘との相思相愛を歌った作品があり、宮廷恋愛の建前が崩れている。もう一つ、政治詩を書いた。皇帝と教皇の争いに際して、時事を主題に立場を表明する詩である。叙情詩人が公共の問題を扱った例として重要視される。

ニーベルンゲンの歌は、救済のない滅びの物語である

ニーベルンゲンの歌(1200年頃)は、宮廷文学とは性格が違う。

竜殺しのジークフリートが謀殺され、その妻クリームヒルトが長い年月をかけて復讐を遂げ、最後には関係者がほぼ全員死ぬ。救いがない。 忠誠と復讐が両立せず、義務を果たそうとする者から順に破滅する。キリスト教的な赦しはほとんど機能しない。

素材はゲルマンの古い伝承にさかのぼるが、書かれたのは宮廷文化の時代である。古い倫理と当代の作法が、同じ作品の中に同居している。

この作品の受容史には注意が要る。19世紀以降、ドイツの国民的叙事詩として扱われ、ナチス期には忠誠の物語として政治的に利用された。 作品そのものと、後世の使われ方は分けて見る必要がある。

中世が残したのは、国家より早く存在した文学

中身
国家がないドイツ語文学は、統一国家より七百年早く存在した
輸入と変形素材はフランス由来。翻案の過程で問題設定が変わった
型の内と外ヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデは宮廷恋愛の型を守りつつ外れた
滅びの叙事詩ニーベルンゲンの歌には救済がない。後世の政治利用にも注意

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