叡智

作者
ポール・ヴェルレーヌ
成立
1881
フランス
時代
19世紀

概要

破滅の果てに回心した詩人が、信仰による悔悟と救いをうたった詩集である。

ヴェルレーヌは、よき歌で幸福な結婚への希望をうたった。だがその後の彼の人生は、破滅へと転落していく。 若き天才詩人ランボーとの激しく放縦な関係。妻との破局。そして酒に酔ってランボーを銃で撃ち、投獄されるという事件。

この『叡智』は、その獄中での回心の体験から生まれた詩集である。牢獄のなかで、絶望の底に沈んだヴェルレーヌは、カトリックの信仰へと、立ち返る。過ちを悔い、神に赦しを求め、平安を見出そうとする、その悔悟の心が、この詩集の中心をなす。

詩集には自らの罪への痛切な悔恨と、神への祈り、そして信仰による、静かな救いが、うたわれる。かつての放縦や、退廃を悔い、清らかな魂へと立ち返ろうとする、詩人の切実な願い。

最も名高いのが獄中から、窓の外の空を眺めてうたった一篇である。「空は、屋根の上に、かくも青く、かくも静かだ」——自由を失った身で、平和な空を見つめ、失われた人生を、静かに悔いる。深い悔恨と、澄んだ諦念とが、繊細な音楽性のうちに、たたえられている。

文学史における評価と影響

ヴェルレーヌの後期を代表する詩集であり、フランスの宗教詩の傑作の一つとされる。

ヴェルレーヌの詩の生涯は、その振幅の大きさで知られる。土星人の歌の憂鬱、よき歌の幸福、言葉なき恋歌の彷徨、そしてこの『叡智』の悔悟。波乱の人生のそれぞれの局面が、そのまま詩になっている。 この『叡智』は、破滅のどん底からの回心と救いを、うたう。

主題は罪の悔悟と、信仰による救済である。ランボーとの破滅的な関係、傷害事件、投獄。その堕ちるところまで堕ちた果てに、ヴェルレーヌは、神へと立ち返る。 自らの過ちを痛切に悔い、赦しと平安を求める、その切実な祈りが、詩集を貫いている。

繊細な音楽性はこの宗教詩にも、生きている。ヴェルレーヌの悔悟は教義的な、硬い言葉ではなく、やわらかく、澄んだ、音楽的な言葉で、うたわれる。「空は、屋根の上に……」の一篇のような、静かで澄んだ抒情は、悔恨の詩を、深い美しさへと高めている。

破滅と、回心。退廃と、清らかさ。その両極を生きたヴェルレーヌの魂の遍歴の一つの到達点として、この詩集は読まれてきた。人間の弱さと、救いへの願いを、これほど正直にうたった宗教詩は、まれである。

内容

詩集『叡智』ヴェルレーヌが、その人生の最も暗い時期を経て、たどり着いた、回心の詩集である。

この詩集の背景にはヴェルレーヌの破滅的な人生が、ある。

よき歌で、清らかな少女マチルドとの幸福な結婚を夢見たヴェルレーヌ。だがその結婚の直後、彼は、若き天才詩人ランボーと、出会う。 そしてランボーとの激しく、放縦で、破滅的な関係に、のめり込んでいく。彼は妻子を捨て、ランボーとともに、ヨーロッパを、放浪する。

その荒れた関係は悲劇的な結末を、迎える。あるとき、酒に酔ったヴェルレーヌは、去ろうとするランボーに向けて、拳銃を、発砲する。ランボーは手を負傷し、ヴェルレーヌは、傷害の罪で、逮捕され、牢獄に、投獄される。

この獄中での絶望の日々のなかで、ヴェルレーヌは、大きな転機を、迎える。彼はカトリックの信仰へと、立ち返り、回心するのである。

『叡智』の詩は、その回心の心から、生まれた。

うたわれるのはまず自らの罪への痛切な悔恨である。放縦に生き、愛する者を傷つけ、堕落した過去。ヴェルレーヌはその過ちを、深く悔いる。そして神に、赦しと、平安を、求める。 かつての退廃した魂を捨て、清らかな、まっとうな生へと、立ち返りたいと、切実に、願う。

詩集の最も名高い一篇は、獄中で書かれた。「空は、屋根の上に、かくも青く、かくも静かだ。木は屋根の上に、その枝を、揺らしている……」。

牢獄の窓から見える、平和で、青い空。自由に揺れる、木の枝。そのありふれた、しかし美しい情景を、自由を失った身で、詩人は、見つめる。そして詩はこう結ばれる。「ああ、そこにいるお前、絶え間なく泣いているお前、言ってみろ、お前は、いったい、自分の若さを、どうしてしまったのだ」。 過ぎ去った人生への深い悔恨と、澄んだ諦念とが、静かな抒情のうちに、たたえられている。

破滅のどん底から、信仰へと立ち返り、赦しと救いを求める。人間の弱さと、悔悟と、救いへの願いを、繊細な音楽性のうちに、正直にうたって、この宗教詩の傑作は、ヴェルレーヌの魂の遍歴の一つの到達点となっている。

作者

登場する文学史