パンタグリュエル

原題
Pantagruel
作者
フランソワ・ラブレー
成立
1532
フランス
時代
16世紀

概要

1532年にリヨンで刊行された物語である。「アルコフリバス・ナジエ」という偽名で出された。本名ラブレーの綴りを並べ替えたものにあたる。

ラブレーの最初の作品で、後に書かれるガルガンチュアはこの主人公の父の代を扱う。書かれた順序と話の順序が逆になっている。

もとになったのは、同じ年にリヨンで出た『ガルガンチュア大年代記』という民衆向けの読み物である。巨人の武勲を並べた粗雑な本だが、よく売れた。ラブレーはこれに便乗する形で、その息子の話として書いた。

内容は、パンタグリュエルの誕生、フランス各地の大学を回る遍歴、パニュルジュとの出会い、そして隣国との戦争である。

ラブレーは1483年ごろ生まれた。修道院に入り、ギリシア語を学んだが、当時この言語の研究は教会から疑われることがあり、蔵書を没収されている。後に修道院を離れ、モンペリエで医学を修めて、リヨンの施療院の医師になった。

この作品を書いたのは、その医師の職に就いた年である。刊行は偽名で、内容も民衆向けの読み物に合わせてある。

刊行後まもなく、ソルボンヌ——パリ大学の神学部で、当時の教義の判定機関——によって断罪された。理由の一つは、聖書の言葉を滑稽な文脈で使ったことにある。

それでも本は売れた。ラブレーは二年後にガルガンチュアを出し、以後第三の書と続篇を書く。

文学史における評価と影響

父からの手紙が最もよく引かれる。ルネサンス期の人文主義——古代の学問を原典から学び直し、人間の能力を信じる立場——の主張が、そのままの形で書かれている。印刷術によって学問が開かれたという認識も示される。

同時に、この作品は学問を茶化してもいる。図書館の蔵書目録は滑稽な書名の羅列で、裁判の場面では意味のない言葉で判決が下される。学問を勧める手紙と、学問を笑う場面が、同じ本の中にある。

パニュルジュの造形も影響が大きい。悪知恵が働き、卑劣で、しかし憎めない人物として書かれる。第三の書では、結婚すべきかどうかを延々と問い続ける主役になる。

言語への関心も特徴にあたる。十三か国語を使う場面、ラテン語をそのまま置き換えた学生の言葉、架空の言語。言葉が通じるとはどういうことかが、笑いの形で繰り返し扱われる。

日本では渡辺一夫の全訳がある。造語と言葉遊びが多く、注釈なしには読み進みにくい。

あらすじ

誕生。系譜が長々と語られる。ノアの時代からの巨人の血筋が並べられる。

パンタグリュエルは、母バドベックが出産で死んだ日に生まれる。父ガルガンチュアは、妻の死を嘆くべきか息子の誕生を喜ぶべきか決められず、その場で両方を交互に繰り返す。

赤子は力が強く、鎖で揺りかごに繋がれるが、引きちぎって出てくる。

遍歴。成長したパンタグリュエルは、フランス各地の大学を回る。

オルレアンでは、学生が学問をせず球技ばかりしていることが示される。パリでは、ソルボンヌの図書館の蔵書目録が二ページ以上にわたって列挙される。実在の書名と、ラブレーの作った滑稽な書名が混ざっている。

リモージュ出身の学生に出会う。この男は、ラテン語をそのままフランス語に置き換えた言葉で話し、何を言っているか分からない。パンタグリュエルが喉をつかむと、普通の方言で命乞いを始める。

父からの手紙。パリのパンタグリュエルに、父ガルガンチュアから手紙が届く。

内容は学問の勧めである。自分の若いころは暗黒の時代で、良い教師も本もなかった。いまは印刷術が普及し、ギリシア語もヘブライ語も学べる。強盗でさえ以前の博士より学がある。だから学べ、と書かれる。学ぶべきものが順に列挙される。言語、幾何、天文、法、自然の観察、そして医学のために人体の解剖。

ただし末尾に条件が付く。学問は、良心を伴わなければ魂の破滅にすぎない、と記される。

パニュルジュ。パンタグリュエルは、パリの街で痩せた男に出会う。

その男は、食べ物を求めるのに十三か国語を使って話す。ドイツ語、イタリア語、スコットランド語、バスク語、オランダ語、そしてラブレーの作った架空の言語まで含まれる。パンタグリュエルは何度も聞き返し、最後にフランス語で答えさせる。

この男がパニュルジュである。以後、連作を通じて登場する。悪知恵が働き、金を巧妙に集め、他人を陥れて楽しむ。

パニュルジュは、パリの城壁を安く作る方法を提案する。パリの女の身体の一部を並べれば石より安く済む、と論じる。

裁判。二人の領主が、内容の分からない訴訟を長年続けている。パンタグリュエルが呼ばれる。

双方の主張を聞くが、どちらも意味の通らない言葉を並べるだけである。パンタグリュエルは、同じく意味の通らない言葉で判決を下す。双方とも満足して帰る。

戦争。故郷が、ディプソデス人の王アナルクに攻められる。パンタグリュエルは帰国して戦う。

パニュルジュは、敵の陣に火薬を仕掛け、罠を張る。パンタグリュエルは巨人ルー・ガルーと戦い、勝つ。

捕らえた王アナルクは処刑されない。パニュルジュが、この王に青ソースの行商をさせ、洗濯女と結婚させる。

戦後、語り手はパンタグリュエルの口の中に入る。中には都市があり、住民がいて、キャベツを植えている。住民は外に世界があることを知らない。語り手は半年ほど滞在して出てくる。

末尾で、続きがあることが予告される。

作者

登場する文学史