アルフレッド・ド・ヴィニー
- 原綴
- Alfred de Vigny
- 生没
- 1797–1863
- 出身
- トゥーレーヌ地方ロシュ(現・アンドル=エ=ロワール県)
- 国
- フランス
- 時代
- 19世紀
生涯
1797年、トゥーレーヌ地方のロシュ(現・アンドル=エ=ロワール県)の古い貴族の家に生まれた。若くして軍隊に入り、士官として十年あまりを過ごした。だが平時の軍隊生活は退屈で、その幻滅の経験がのちの作品に影を落とした。
軍を退いてからは、詩・小説・戯曲を書いた。ロマン派の詩人たちと交わり、ユゴーらのグループに加わった。一時は女優と激しい恋におちたが、その破局もまた、人間への幻滅を深めた。
社交や論争を好まず、しだいに世間から身を引いて、孤独な思索の生活を送るようになった。この隠遁の姿勢は「象牙の塔」と呼ばれた。晩年に書きためた思索的な詩は、死後にまとめて刊行された。1863年に没した。
作風
ヴィニーの詩は、思索的で、哲学的である。他のロマン派の詩人が感情を奔放にうたったのに対し、ヴィニーは人間の運命という大きな問題を、抑えた調子で見つめた。感傷よりも、冷静な思索が、その詩の基調をなす。
一貫した主題は、孤独と、運命への諦念である。ヴィニーの目に、宇宙も神も、人間の苦しみに冷淡である。その非情な運命を前にして、人間にできるのは、嘆かず、沈黙のうちに耐えることだと説いた。詩「狼の死(La Mort du loup)」では、猟犬に囲まれ、声一つあげずに死んでいく狼に、この沈黙の気高さを重ねた。
象徴的な人物や動物に、思想を託すのも特徴である。運命に耐える狼、見捨てられたモーセ、キリストの苦悩といった形象を通して、人間の条件についての省察を展開した。
作品
『運命詩集(Les Destinées)』(死後刊、1864年)
人間の運命をめぐる思索を、象徴的な物語詩に結晶させた詩集である。沈黙のうちに死ぬ狼を描いた「狼の死」など、ヴィニーの哲学を示す代表的な詩を収める。孤独と諦念の思想が、荘重な詩句にうたわれている。
『サン=マルス(Cinq-Mars)』(1826年)
十七世紀を舞台にした歴史小説で、フランス最初期のロマン派歴史小説とされる。戯曲『チャタートン』は、社会に容れられず自殺する若い詩人を描き、芸術家の孤独を主題にした。
文学史における立ち位置と影響
ヴィニーは、フランス・ロマン主義のなかで、最も思索的な詩人として文学史に名を残す。感情の奔流を特徴とするロマン派にあって、人間の運命を冷徹に見つめ、諦念のうちに耐える気高さをうたった点に、その独自性がある。
世間から身を引いて思索に沈むその姿勢は、「象牙の塔」という言葉を生んだ。社会から離れた芸術家の孤高というこの理想は、後の世代に受け継がれた。
感傷を抑え、思想を象徴的な形象に託すその手法は、後のボードレールら、象徴主義へと向かう詩の流れを、遠く準備するものだった。ロマン派の内側にありながら、その先を指し示した詩人とされる。