ソネット集

原題
Shake-speares Sonnets
作者
ウィリアム・シェイクスピア
成立
1609
イギリス
時代
ルネサンス

概要

戯曲で知られるシェイクスピアの、詩だけを集めた一冊である。14行の詩が154篇、番号を振って並んでいる。一篇はおよそ本のページの半分ほどで、通して読んでも二時間はかからない。

各篇は同じ型をとる。4行・4行・4行・2行に分かれ、前の12行で状況や比喩を積み上げ、最後の2行で言い切って閉じる。この2行は韻を踏んで対になっており、格言のように独立して引用できる形になっている。

物語ではないが、篇と篇のあいだに事情がうっすら見える。前半のおよそ126篇は、若く美しい男性に向けて書かれている。子を作れと勧め、称え、離れることを恐れ、裏切られて責める。127篇以降は「黒い婦人(Dark Lady)」と呼ばれる、当時の美の基準から外れた色の濃い女性に宛てられ、欲望と嫌悪が同時に書かれる。青年と婦人が通じてしまったことを嘆く篇もある。

この人物たちが誰なのかは分かっていない。刊行時の献辞は「W・H氏」という頭文字に宛てられているが、該当者は特定されていない。

刊行は1609年、印刷業者トマス・ソープによる。シェイクスピアが刊行に同意していたかどうかも定かでない。

文学史における評価と影響

英語のの型を、この一冊が確定させた。

もともとソネットはイタリアの形式で、ワイアットが英語に持ち込み、サリー伯が4行・4行・4行・2行という英語向きの型に組み替えた。シェイクスピアはその型で154篇を書き、質量ともに他を圧した。以後この型は「シェイクスピア型ソネット」と呼ばれる。形を作ったのはサリー伯だが、名前はこちらに残った。

評価は一定していない。18世紀には、戯曲に比べて価値の低い若書きとみなされ、ほとんど読まれなかった。復権させたのはロマン主義の詩人たちで、ワーズワースは、この鍵でシェイクスピアは自分の心を開いてみせた、という趣旨を書いている。これに対してブラウニングは、もしそうならシェイクスピアもその程度の男だ、と皮肉で応じた。詩人の実人生の告白として読むか、注文に応じた技巧の産物として読むかという対立は、今も残っている。

「W・H氏」と「黒い婦人」の正体をめぐる詮索は、19世紀以降おびただしい量の推測を生んだ。同性への愛を歌った詩として読む立場も含め、決着はついていない。

内容

第1篇から第17篇までは、美しい青年に向かって結婚して子をもうけよと勧める内容で占められる。美は時とともに失われるが、子を残せばその姿は写しとして残る、という論法を角度を変えて繰り返す。

第18篇「君を夏の一日にたとえようか」から論法が変わる。子ではなく、この詩そのものが青年を残すのだと言い出す。人が読み続けるかぎり、この詩の中で君は生き続ける、と結ぶ。以後、時間と滅びに対して詩が何をなしうるか、という主題が繰り返し現れる。

中盤では、別の詩人が青年の庇護を得たことへの嫉妬、離れている苦しみ、青年の過ちへの許しが歌われる。第116篇は、変わるものを見ても変わらないのが愛だと述べ、結婚式で読まれる詩として広く知られる。

第127篇からは相手が変わる。第130篇は、恋人の目は太陽に似ていない、唇は珊瑚ほど赤くない、と当時の恋愛詩の決まり文句を一つずつ否定していき、それでも自分の恋人は誰にも劣らないと結ぶ。称賛の型をそのまま裏返した詩である。第129篇は欲望を、消える前も後も人を狂わせるものとして書く。

最後の二篇は他と性格が異なり、古代ギリシャの詩を下敷きにした短い作品が置かれている。

作者

登場する文学史